2016年4月に熊本を襲った地震から3年。街は活気を取り戻しつつあります。しかし一歩脇道に入ると、地震の前にはなかった現象が起きています。復興に向けたにぎわいの影で何が起きているのか。記者が現場を歩きました。
熊本市で最大の繁華街、下通アーケード商店街。4月初旬の日曜日の午後は、家族連れやカップルでにぎわっていた。熊本城から近いこともあり、スーツケースを引きながら歩く外国人観光客のグループも見かける。
なかでもひときわ人だかりが目立つのが、ガラス張りの商業施設の前。2017年4月に開業した「COCOSA(ココサ)」だ。
地下1階、地上8階建てのビルのうち6フロアを占める。オープン時はファッション系のテナントの7割は熊本初出店で、話題を呼んだ。初年度の1年間で、目標の400万人を上回る500万人以上が来館した。
ココサで買い物をした、市内の江藤裕太さん(36)は、「地震からしばらくは、商店街に元気が無くなったけど、今は震災前よりもにぎわっている」と話す。
2016年4月14日と16日。県内で最大震度7の揺れが2回襲った熊本地震から3回目の春を迎えた。まちのシンボルであり、最大の観光名所だった熊本城も天守閣の瓦が落ち、石垣は崩れた。商店街のアーケードも、壁タイルのひびやガラスが割れるなどの被害があり、多くの店舗が休業を余儀なくされた。
しかし、店舗が再開すると客足は戻った。ココサの開業もあり、17年度の通行量は、前年より27・3%増えた。
相次ぐ大型再開発
市内ではさらに大型の再開発が目白押しだ。
アーケード近くの熊本市中央区桜町の一角では、巨大なビルの建設が進む。
九州産交ホールディングス(HD)などが手がける再開発だ。バスターミナルを備えるビルに、148店舗が入る商業施設や、15階建ての分譲マンションも建つ。
商業施設は今年9月にオープン予定だ。運営会社によれば、すでに8割ほどの工事が終わっているという。
通りかかった女性(30)は、ビルを見上げながら、「だいぶでき上がってきた。完成すれば熊本での買い物がまた楽しくなる」と話した。
来年2月に閉店する熊本パルコも、入居するビルを建て替えたら、新しい業態で再出店するという。
ほかにも、熊本城の東にあった「JT熊本支店」と、「NHK熊本放送局」の両跡地を市が買い取り、熊本城の歴史や復旧に関する展示施設にする構想もある。
中心部から離れた場所でも大型プロジェクトが始まった。21年春に開業する、JR九州の熊本駅ビルの建設が3月から始まったのだ。商店街から離れた熊本駅周辺は、「何もないさびしい状況だった」(青柳俊彦・JR九州社長)が、地上12階、地下1階に商業施設やホテル、結婚式場が入るビルができる。
着工の式典に出席した大西一史市長は、「地域経済の活性化につながる。地震の復興に力強く寄与する」と期待をこめた。
城下町に目立つ空き地
熊本市の人口は70万人を超える。九州では福岡市、北九州市に次ぐ第3の都市だ。もともと経済基盤は大きい。資金力がある大企業主導でどんどん再開発は進むが、個人の建物となると話は別だ。地震後のまちの「負の変化」を感じる人もいる。
城下町の「新町」地区で、自治会長を務める毛利秀士さん(76)は、その1人だ。
「あそこは立派な町屋だった」「あそこも個人商店だった」
まちを歩きながら、毛利さんは次々に空き地や駐車場を指さした。
菓子屋や人形店など昔ながらの商店が集まるが、数百メートル歩くうちに、10以上の空き地や駐車場が点在していた。
加藤清正が、約400年前の熊本城の築城とともに造った歴史ある城下町。木造の町屋にカフェが入るなど、レトロな雰囲気を残そうとしている。
玄関口の熊本駅から熊本城の途中にあることもあり、観光地として維持すべく、町屋の建物の修復に熊本市も補助を出している。
しかし、地区の高齢者の多くが、地震で損傷した家を解体して市内外に移り住んでいると毛利さんはいう。
知人の商店も全壊し、気力をなくして再建を諦めた。毛利さんは「街の魅力を後世に残そうとがんばってきたけど、地震に水をさされた」と肩を落とす。
同じような光景が、近くの「古町」地区や「本荘」地区でも目立つ。本荘地区に住むある女性(57)は、「地震でだめになった古い家はみんな駐車場になった。住んでいた高齢者は、マンションに移っている」。
■駐車場だらけで過当…