人気の格闘ゲーム「鉄拳」の世界大会で今年2月、無名のパキスタンの若者が優勝する「番狂わせ」が起きた。優勝後に「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」と言って業界を騒がせた彼を、パキスタン東部のゲームセンターでインタビューすると、「道場破り」とも言える特訓方法や「借金」に苦しんだ過去、知られざる猛者たちのエピソードを語ってくれた。
(withnews)格ゲー業界騒然!パキスタン人が異様に強い理由
ゲームセンターを「はしご」
福岡で開かれた世界大会を制したのは、パキスタン東部ラホール出身のアルスラン・アッシュさん(23)。実家近くのゲームセンターで待ち合わせると、日暮れ前、眠たそうな目をこすりながらTシャツ姿で現れた。優勝後に日本や韓国などから招聘(しょうへい)試合の申し込みが相次ぎ、慣れないビザ申請に追われているのだと語った。ゲームセンターのソファに腰掛け、フライドポテトをかじりながら、話を聞いた。
Q:いつごろ格闘ゲームを始めたのですか?
A:12歳のときです。2008年ごろでした。友達の間では鉄拳がはやっていて、私もゲームセンターに立ち寄りました。キャラクターの豊富さや映像の迫力に、のめり込みました。
Q:数ある格闘ゲームの中で、なぜ鉄拳を選んだのですか?
A:最初は「ストリートファイター」など、他の格闘ゲームもやっていました。ただパキスタンでは、目新しい3次元映像の鉄拳が人気で、競技人口も圧倒的に多かったのです。強い練習相手も見つけやすかったので、おのずと鉄拳に集中するようになりました。
Q:成績はどうでしたか?
A:はじめから強かったんです。人より反応が速いことに気づきました。これはギフト(才能)だと思いました。
Q:どのように練習したのですか?
A:ラホール市内には、いくつものゲームセンターがあります。ゲームセンターからゲームセンターに移動しながら、通常であれば日に5~6時間ほど対戦しました。試合前の期間は日に8時間ほど練習していました。
「ピアニスト」のようなフォーム
アルスランさんの対戦を観察していて気になったのは、独特の指づかいだった。パンチやキックを繰り出すボタンを押すのは、右の指。その指をピアノでも弾くような形で固定し、手首だけをわずかに上下させていた。また、キャラクターを前後左右に動かすレバーは、左手で軽くつまみ、小刻みに揺らす程度。背筋をピンと伸ばし、画面だけをじっと見つめていて、どれだけ劣勢でも表情を崩したり声を出したりすることはなかった。
Q:右の指を固定するようなフォームは、誰かから指南されたものですか?
A:自分で考えました。相手よりも早くパンチやキックを繰り出すには、相手よりも早くボタンを押す必要があります。早くボタンを押すには、指をボタンに出来るだけ近づけておけばいい。そう考えて、ボタンの上で指を立てておくフォームを思いつきました。ただ、このフォームに慣れるのには数カ月かかりました。違和感を抱えつつも数カ月続けると、徐々に慣れてきました。反射的にボタンを押せる、このフォームが気に入りました。
Q:結果は付いてきましたか?
A:国内大会で2012年に初優勝したのを皮切りに、地方大会も合わせると計40回ほど優勝しています。
最大の壁は「ビザ問題」
国内で腕を磨いたアルスランさんが、国際大会に出場できるようになったのは、つい最近のことだという。
Q:海外で戦うようになったきっかけは?
A:2018年夏にスポンサーが付いたのが最大の転機ですね。パキスタンの国民が海外に渡航しようとすると、まずビザの問題が立ちはだかります。治安が落ち着かない国とのイメージが強いので、ビザの申請段階ではねられることが多いんです。そんな中でビザを出してもらうには、身分を保証する第三者、つまりスポンサーの存在が欠かせない。スポンサーがいれば、ビザを出してくれる国も出てきます。それが、今回の大会の舞台となった日本だったのです。
熱気あふれるパキスタンのゲーセン。後半では希少な動画も掲載しています。
ライバルは自分で探すもの
アルスランさんはインタビュー…