日本一の梅の生産量を誇る和歌山県内で、相次ぐ南高梅の梅干し入り樽(たる)の窃盗被害。事情に詳しい元農家らの関与も明らかになった。加工業者らは盗品の流通を防ぐ対策作りを進めている。
今年2月、和歌山地裁田辺支部は、2016~17年にみなべ町や田辺市の農家の倉庫3軒に侵入し、梅樽(10キロ入り)約460個(約300万円相当)を盗んだとして、元梅農家の男(37)=御坊市=に懲役2年4カ月の判決を言い渡した。同支部は、元農家の男が盗んできた梅樽の一部を盗品と知りながら仲買業者に運び、売却したなどとして、梅加工業の男(31)=みなべ町=に対しても昨年12月に懲役2年執行猶予4年、罰金10万円の判決を言い渡した。
倉庫から約160個の樽を盗まれる被害にあった70代の梅農家の男性=同町=は「生産の手間がわかっているはずの同業者の犯行で悲しい」と憤る。
県警によると、12年以降、梅樽の窃盗被害は田辺署管内で12件発生。計約16トンが盗まれ、被害総額は約900万円に上るという。盗まれたのは農家が収穫後に塩漬けと天日干しをして樽詰めした「白干し」と呼ばれるもの。この「白干し」を加工業者らが買い、味付けなどをして梅干しとして販売する。
県内の取引では、だれが生産したかがわかるように生産者名や等級などを記載した「生産者ラベル」を樽の外側に貼り付けている。だが、みなべ町の加工業者は「悪意があればラベルの偽造も難しくない。ラベルだけで盗品かどうか見極めるのは困難だ」と話す。
田辺支部の判決によると、男らは仲買人の経験があった。盗品を運搬した男は、盗んできた樽に自分の名前を書いたラベルを貼って売却していた。ある加工業者は「梅の取引は『信頼』で成立する。ラベルも確認するが、顔見知りの仲買人であれば疑いなく購入する」と話す。
仲買人には資格などは必要とされず、JAの担当者は「不作の年はどの加工業者も梅不足で、出自不明の梅を売る仲買人が出てきやすい」と打ち明ける。
相次ぐ盗難被害を受け、地元の加工業者らが対策に乗り出している。みなべ町や田辺市、JA、梅干協同組合などの関係者でつくる「紀州梅の会」が中心になり、昨年12月から会議を開催。同会事務局によると、ラベルに加え、樽の中の梅干しを包むポリ袋に生産者名をペンで書いたり、スタンプを押したりする方法を検討しているという。
この対策により、盗んだ梅樽を…