30年ほど前「クロワッサン症候群」という本がベストセラーになった。女性の自立をうたう雑誌に影響を受けた30代女性の、結婚やキャリアに対する葛藤を描いた。著者の松原惇子さん(72)は、平成の30年で女性の生き方の選択肢が増えたと語り、令和を生きる女性たちに「ひとりでも大丈夫」とエールを送る。
――向田邦子や桐島洋子をモデルに自立する女性の生き方を紹介した女性誌「クロワッサン」。これにあこがれ、自立の道を歩む女性の葛藤を描いたノンフィクションを発表したのは、1988(昭和63)年だった。
「当時は雑誌の影響力がすごかった。女の自立が騒がれていたけど、本当に自立してやれる人は一部だったのに、まるで全員ができるようにあおっていたから、それは違うと思ったの。世間やマスコミに流されて自分の生き方を決めないでって、若い女性に言いたかったのよ」
――松原さん自身も39歳で作家デビューするまで、もがき続けていた。
「女性の就職は結婚までの「腰掛け」と思われていた時代だったから、女子大を出てそのまま結婚したの。家にいてもすることがないし。でも、他人と一緒に暮らすのは向いてなかった。すぐに別れて、そこからはお金もない、仕事もない一人旅よ」
――新聞の求人欄でアルバイトを探し、安いアパートでひとり暮らし。人と違う生き方を選んだのに、外れてみたら大変な道だった。
「平凡な幸せに満足できないのに、何がしたいと聞かれたらわからない。女優になりたいとかいう夢もない。見た目は派手で幸せそうに見えたかもしれないけど、心の中はぐちゃぐちゃだった。死にたかったもん、つらくて」
――アパレル会社に勤めたり、ニットや革製品を作って売ったり、米国留学もした。帰国後、フリーライターとして週刊誌に少しずつ記事を書くうちに、転機は突然訪れた。出版社の人とつきあいで行ったカラオケの席で、隣に座った男性から言われた。
「『君は結婚しているの?独身…