前回の東京五輪から2年後の1966年秋。東京都新宿区にある学習院初等科の屋上で、小学1年生の一団が西の空を眺めていた。五輪開会式に使われた旧国立競技場の横から、悠然と富士山が見える。「ふじ山だあ、ふじ山だあ」と声を上げる子どもたちの中に当時の浩宮徳仁(なるひと)親王、1日に即位した天皇陛下の姿があった。
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翌年の3月、同校の文集「小ざくら」に「ふじ山をみた」という陛下の作文が掲載された。「はじめは、くもだとおもいました。先生が、『ふじ山ですよ』と、おしえてくださいました」。そして、こう締めくくっている。「ぼく、あんまりうれしかったので、おくじょうから、おっこちそうになりました」
登山好きで知られる陛下は、「静かで雄大な感じのする山が好き」だという。山岳雑誌「岳人」に寄稿した2014年の文章には、「作文を書いた頃から半世紀近く、私は富士山に魅せられ続けている」とつづっている。
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