建築現場で鉄骨をつなぎとめるのに使われる「高力(こうりき)ボルト」。この小さな部品が全国の建設現場で足りなくなっているとして、国土交通省が対策に乗り出した。建設ラッシュで需要が増えているとはいえ、なぜ極端に不足しているのか。背景には意外な理由があった。
高力ボルトは、一般的なボルトより強い力で資材を固定できる。鉄骨をつなぐ時に溶接のかわりに使える特徴がある。2020年東京五輪に向けた建設需要の増加に加えて、最近は溶接工が不足しているため、溶接の代わりの手段として多くの現場で使われるようになっているという。
国交省によると、供給不足が目立ってきたのは昨年の春~夏ごろ。同省が今年3月に行った調査では、建設会社など238社のうち9割以上が、ボルト不足が工期に影響したと回答した。高力ボルトの納期は通常1~2カ月とされるが、最近は8カ月ほどまで延びている。
ただ、国交省がさらに調べたところ、ボルト不足の理由はこれだけではなかった。
高力ボルトが需要が増えれば、ボルトを使う鉄骨の需要も増えるはず。ところが鉄骨の需要量は、ボルトに比例して増えているわけではなく、ここ数年で微増にとどまっていた。
国交省は「本来は高力ボルトが不足するほどの状況ではないはず」と分析する。建設資材を扱う商社などがボルトの不足を懸念し、在庫の確保のため多めに発注した結果、実際の需要を超える注文がメーカーに殺到し、供給が追いつかなくなっている可能性があるという。
国交省は対策として専用の発注書を作成し、建設業界に使うよう呼びかけている。いつまでにどの現場で高力ボルトを使うか明記する項目を設け、必要な分だけ発注をするように促す。優先的に供給しなければいけない現場がどこかをわかるようにし、市場の混乱を押さえるのが狙いだ。
石井啓一国土交通相は17日の閣議後会見で「不確定要素が高い発注を避け、必要な分を必要な時期に注文するというルールを徹底してほしい」と述べ、理解を求めた。