パワハラ上司に長時間労働を強いる空気――。働くのが苦しくなってしまう職場がなくならないのはなぜか。考え続けている産業医がいる。
心身の健康を保ちながら働けるよう、専門的な立場から指導・助言してくれる「産業医」は、企業や従業員にとって大切な存在だ。長年にわたって精神科の産業医を務めてきた筑波大教授の松崎一葉さん(59)は、15年ほど前に大手企業の役員から言われた言葉が忘れられないという。
3年で身も心もぼろぼろに 裁量労働が強いた長時間労働
特集:カイシャで生きる
部下追い詰め成果
「メンタルヘルスなんてやめてくれ。おれは部下を5人つぶして役員になった」
部下を精神的に追い詰めながら成果を出し、どんどん出世していく人。松崎さんは「クラッシャー上司」と名付けた。
産業医として接した職場で、クラッシャー上司が一定割合で存在したという実感がある。彼らを分析した本を2年前に出したところ、「うちにもいます」「上司がそうです」などと切実な反響が広がった。
クラッシャー上司は、激しい競争社会を根性や過重労働で勝ち抜いてきた「サバイバー」だ。成功体験をベースにした自負心があり、部下に過大な負担を要求をしても「正しいことをしている」と信じている。追い詰められた部下の気持ちを理解できない鈍感な人間だ。しかし、会社に利益をもたらす「仕事ができる人」であることが多く、組織から排除されにくい傾向もある。
■いじめ・嫌がらせ…