プラモデルや模型好きの間で「聖地」と呼ばれ、県内外から愛好家の集まる店が新潟県長岡市にある。戦後間もなく開店した「龍文堂」。ショーウィンドーには人気アニメ「ガンダム」や戦車のプラモデルが並び、店内には1万点以上もの商品が天井までびっしりと積み上げられている。人気の店を訪ねてみた。
すごい…親父世代が夢中になるわけだ ガンダム、40年の先へ
道路沿いの古びた一軒家がそのお店。店の顔、ショーウィンドーにずらりと並ぶプラモデルは、常連客たちの作品だ。10年ほど入れ替えていないが、「ここに飾ってもらうのが夢」と話す客もいる。
創業者の長女で、店を守っている田中正子さん(70)は「プラモデルをねだっていた子が親になって、今度は自分の子を連れてきてくれるのがうれしくてね」と話す。
長岡がまだ焼け野原だった1948年、田中さんの父、小林龍平さんが店を開いた。当初は学校関係の教材を扱っていたが、小林さんの鉄道好きが高じて模型やプラモデルを扱うようになったという。田中さんはこの店で育った。「エンジンのこと、飛行機模型のプロペラの作り方も見て覚えたのよ」
店内には、10本50円の竹ひごから9万円を超える戦車まで、模型やプラモデル関連のありとあらゆる商品がそろう。下のほうの箱は色あせ、店がたどってきた歴史の長さを物語っている。田中さんが客の好みを思い浮かべながら品物を仕入れ、その品ぞろえにひかれて、県内外から客がひっきりなしに訪れてくる。
5月下旬に店を訪ねると、月に1回はやって来るという南魚沼市の会社員、南雲貴之さん(26)がガンダムの最新のプラモデルを求めて来ていた。
「発売されたばかりのが欲しくて来たら、やっぱりあった」。品物の箱をそっと開け、説明書を見ながら必要な塗料まで龍文堂で一式買いこんだ。手に取って商品を確かめることができないインターネット販売とは違うといい、「ネットではこういう買い方はできないので、助かります」と話した。
母親に連れられ、初めて店に入ったという高校1年生の男子生徒(15)がいた。軍艦の模型が積み上がった棚の前で足を止め、「お金さえあれば、端から端まで買いたいけど……」とつぶやき、ため息を漏らした。
かつての常連客の中には、少年時代にバイクのプラモデルに熱中し、それが高じて大手二輪メーカーに入社し、世界を飛び回っている人もいるという。模型愛好家として知られる俳優の石坂浩二さん(77)も、何度かやってきた。
長岡市などで大きな被害が出た2004年の中越地震の時、店はショーウィンドーのガラスが割れ、ほとんどの商品が棚から落ちたが、数日後には店を再開した。田中さんは「そんな時こそ店を開けたいよね」。今も店内には、地震の影響でできたひび割れが床に残り、柱と土台は位置がずれている。
古いのは店構えだけではない。ネット全盛の時代に通販はやらず、店頭販売にこだわっている。田中さんは「来て、見て、手にとって買ってほしいの」という。「こんな変わらないところが、一つぐらいあってもいいんじゃないの」(岩波精)
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〈龍文堂〉 長岡市表町1丁目。JR長岡駅から西に約600メートル、表町交差点からすぐ。営業時間は午前10時から午後8時。水曜定休。電話は、0258・32・2782。