銚子産キンメダイの一定割合は外海を回遊せず、銚子沖にとどまって成長しているらしいことが、地元漁業者らの25年に及ぶ調査でわかってきた。この海域は冬に親潮と黒潮がぶつかり、利根川の河口にも近いためプランクトンなどの餌が豊富といわれる。漁場の良さが市場での高い評価につながっていると推測してきた千葉県銚子市のキンメ漁師たちは、調査がその裏付けになるのではと期待している。
東京・豊洲市場の鮮魚仲卸「尾邦(おくに)」によると、かつては静岡県の伊豆・稲取産のキンメが最高値をつけていたが、近年は銚子産が価格で追い越したという。代表の三浦伸浩さんは「銚子のキンメは脂の乗りが違う。扱いがよく、身の柔らかい稲取産と違って刺し身にも向く。客には『銚子産でなければいらない』という人もいる」と絶賛する。
銚子産キンメの漁場は銚子市の南東50キロほどの海域で、水深300~500メートル。生態がよくわからなかったこともあり、漁業者らは県水産総合研究センターの協力を得て、1994年から年1回、ここで釣ったキンメの背びれ付近に数字入りの標識(タグ)を付け再放流してきた。
これまで8096匹にタグを付け、全国で333匹が再捕獲された。遠くは東京・硫黄島や鹿児島県の屋久島、奄美大島でも見つかった。
一方で、再捕獲数の6割に当たる約200匹が銚子沖で捕れた。最近では5月16日に、頭から尾の付け根までの長さが35・7センチ、重さ約1キロの個体が再捕獲された。4年7カ月前の2014年10月に29センチで放流されたものだった。
この漁場でキンメを捕ってきた銚子市の漁師田辺克巳さん(60)は以前、県内の別の地域でキンメ漁をしている知り合いの漁師が銚子産を食べて「味が違う」と言うのを聞いた。漁では、エビやカニのほかハダカイワシをのみ込んだキンメがよく釣れるという。これまでの調査結果に「おいしい餌があるから外に出ていかないというのは人間と同じでは」と話す。
かつては長さ2~3キロのはえ縄で海底を引きずるように捕っていたが、乱獲や身の傷みを防ごうと05年ごろから一本釣りに近い漁法に変え、漁も日曜・祝日を除く早朝の2時間半に限った。漁師やその家族、漁協職員が自ら首都圏の小売店やイベント会場を回って売り込み、13年には「銚子つりきんめ」の名で地域団体商標を登録。豊洲市場では「銚金(ちょうきん)」の愛称が定着している。
漁業者らは今後も標識放流を続け、銚金の味の良さを科学的に裏付けたいと考えている。(高木潔)