2020年東京五輪・パラリンピックや大会後を見すえ、解決したい課題や取り組みたい活動を、企業トップらに聞きました。
沢田秀雄エイチ・アイ・エス会長兼社長
前回の東京五輪の時は中学生でした。戦後からの復興で高度成長が始まっており、社会が明るかった。今回は雰囲気が違います。少子化で人口が減り、地方も縮んでいます。
昨年3月から出張でアジアや東欧を回りました。ポーランドなんかは明るかった。これから経済発展すると思います。みんなスマートフォンを持っていました。旅行者も、その国の人も。よくこれだけみんな持っているなと。それで情報を取るんでしょうね。日本では知られていない観光地や古い街並みもたくさんあるなと感じました。
日本にも海外であまり知られていない観光地があります。例えば長崎周辺には雲仙温泉や天草の教会群、佐世保周辺なら平戸や九十九島、武雄温泉、嬉野温泉があります。宝の山です。
アピールしたいのに宣伝費がない地方もあるのかもしれませんが、世界的に有名になって観光地が面的に広がれば、訪日外国人旅行者はさらに増え、地域経済の活性化にもつながります。日本は歴史や文化、自然があって食事もおいしい。北から南まで見どころがたくさんあります。サービスも悪くないし安全。物価も昔ほど高くないし、シンガポールに比べたら安いぐらいです。素材や環境は整っていて、訪日外国人旅行者がリピーターになる確率も高いと思います。全世界を旅していますから、よくわかります。
外国語が話せなくても恐れることはありません。大事なのは、おもてなしの気持ちです。気持ちがあれば伝わります。僕も英語が伝わらずに苦労したことはありますが、それなりに通じるんです。今は小さな翻訳機だってありますし、簡単な会話はできます。
2020年東京五輪・パラリンピックを機にたくさんの海外の方が来日して日本を知ってもらうのは素晴らしいことですし、その後も訪日外国人旅行者は増えると思います。よくないのは人手不足によって、サービスの質を落としてしまうこと。そこで自動化やロボット化を進めて、人手がかからないホテルをつくっています。
平和でなければ旅行にはいけません。食べられなくなったら人から奪おうとしますから、植物工場で野菜をつくろうとしています。安くて潤沢な食料とエネルギーが提供されれば紛争も減ると思いますので、生産性の高い太陽光発電の開発も考えています。ロボット開発もどんどん進めていきたいと思います。
少子化で日本から海外への旅行者は減るだろうという不安はありますが、若い人はもっと海外に出るべきだと思います。われわれも、若い人には海外に行っていただけるように努力したいですね。国によって文化や歴史、街並みが違いますし、こういう考え方もあるんだな、などと視野が広がります。発想が豊かになり、想像力もつきます。僕も若いときに4年半の世界旅行をしていなかったら、今の事業はなかったかもしれません。問題や失敗もありますが、若いうちの経験はいずれ、大きなプラスになります。
通信や航空網の発達で、世界のマーケットはこれから本格的に伸びるでしょう。日本では少子化などの問題がありますが、日本だけでものを考える時代は終わっています。世界目線で考えると、景色が変わるのです。(聞き手=末崎毅)
◇
さわだ・ひでお 1951年大阪府生まれ。80年にインターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を創業し、格安航空券の販売で急成長した。96年に新規航空会社スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)を設立、2010年には長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスの再建を引き受けた。