吹き荒れていた解散風はピタリとやんだ。だが、なぜ首相が自由に衆院を解散できるのか。政治家や国民に、思い込みはないだろうか。英国では近年、首相の解散権に制約が加えられた。与党が勝てそうなタイミングでいつでも行使できてしまう解散権。現状を追認したままでよいか。憲法学者の岩切大地・立正大学教授に聞いた。
――「首相には衆議院を解散させる権限がある」ということを素朴な前提にして、日本では戦後ずっと政治が行われてきました。
「国会でよく目撃されてきた光景が思い出されます。衆院議長が議場で解散の詔書を朗読したあと、衆院議員たちの多くがなぜか万歳三唱を叫んできました。しかし『その前に議員が本来すべきことはないのか』という問いは投げかけられたでしょうか。議員のすべきことは、その解散・総選挙が必要かどうかを吟味することなのではないかと私は考えます」
――衆院解散について憲法にはどう書かれているのでしょう。
「よく知られるのは憲法69条でしょうね。『衆院で不信任案が可決されたら内閣は10日以内に衆院を解散するか総辞職する』と定めた規定です。日本が採用する議院内閣制は、国会に信任された内閣が国会に対して行政の責任を負う仕組みです。国会が内閣を信任しなければ、政治が膠着(こうちゃく)状態に陥るため、打開策として解散という手段が埋め込まれているのです」
――内閣不信任案が可決されたわけでもないのに好きなタイミングで首相が解散を決めてしまう――。最近気になるのはそんな解散です。2017年の解散を首相は「国難突破解散」と呼びました。
「『衆院の解散権は内閣にある』。これが政府の解釈です。根拠は憲法7条にあると政府は説明しています。7条は、天皇が『内閣の助言と承認』に基づいて行う国事行為を計10項目挙げており、その一つに『衆議院を解散すること』があります。国事行為としての衆院解散が、内閣の助言と承認で行われる。そう定めた規定から、内閣には解散権があるとの解釈を引き出したのです」
■誰のものか、憲法には明…