銀行が経験のない農業に取り組んでいる。その背景には何があるのか。農業県・宮崎の事例から探る。
6月下旬、宮崎市郊外の田園地帯。季節に応じて室温や湿度が一定に保たれた農業用ハウス内で、アボカドの木から緑の葉が広がっていた。枝の先の実は、こぶし大ほどに育っていた。
枝がしだれていないか、落葉が多くないか。農業法人「夢逢(あ)いファーム」社長の緒方省吾さん(43)がハウスを見て回る。無精ひげに作業服。農作業が板についているが、本来の姿は宮崎銀行の銀行員だ。
農業法人は、宮崎銀が2017年8月に子会社と共同で5千万円を出資して立ち上げた。宮崎銀は初めから農業のノウハウを持っていたわけではなかったが、近くの果樹園の技術支援を受けられることになり、銀行グループだけで設立に踏み切った。
品種選びから水やりの頻度まで指導を受けてはいるが、法人の資金や人材は、全て銀行が自前で賄っている。設立時は社長に宮崎銀の元取締役を起用。行内の公募に応じた緒方さんは農場長に就任した。今年4月からは緒方さんが社長に就いた。現在、緒方さんを含め、夢逢いファームに従事する2人は、ともに宮崎銀からの出向だ。
「当面のリスクはすべて銀行の体力で賄う。そこに私たちがやる意味がある」
宮崎銀の原口哲二専務(62)は、法人設立時の記者会見で、こう意気込みを語った。当初計画では銀行からの出資金に加え、貸し付けを行い、20年に約2トンの収量を確保。売上高600万円をめざす。5年以内の黒字化を目標とした。
宮崎銀が描く青写真はこうだ。
「高級アボカド」として、栽培…