世界自然遺産・知床を中心にシャチの生態を研究する北海道シャチ研究大学連合が、クラウドファンディングで研究費の資金援助を募っている。新たな調査に必要な特殊計器の購入などに充てるためだ。シャチが来遊する理由や季節移動などの謎を解き明かし、知床の魅力を世界に発信したいという。
大学連合は2011年、東海大、常磐大、三重大、京都大、北海道大の研究者らが立ち上げた。個体識別のための写真撮影や鳴き声の録音、衛星発信器での追跡を通じてデータを蓄積。背びれの形や背中の白斑模様(サドルパッチ)などから来遊するシャチを識別し、知床半島東側の根室海峡周辺では417頭の個体を確認した。
さらに根室海峡には8グループ(各10~30頭)からなる「常連」の群れがおり、複数のグループが一堂に会することや、夏は北方四島のオホーツク海沿岸部へ季節移動することもわかった。すると、「根室海峡にはいつ来遊するのか」「複数のグループが集まるのは繁殖のためか」など次々疑問がわいてきた。
だが、疑問を解くにはシャチと海洋環境の長期的なモニタリングが必要だ。そのためには海流の季節変化を調べる計測機器を海中に設置しなければならない。船上装置の整備や鳴音記録計のメンテナンス、使用する計器のバッテリー交換も経費がかかる。
日本でのシャチ研究は始まったばかりで、世界的には「未知の海域」となっている。こうした中で、カナダなど先進地のシャチとは違った特徴がいくつか明らかになってきた。一方で、最近は「シャチに出会える海」として羅臼沖での観光クルーズが人気となっている。
大学連合のメンバーで、アザラシなどの海獣類を研究する北大北方生物圏フィールド科学センターの三谷曜子准教授は「海流など海洋物理的なデータはあまりなく、この研究が最初の連続データとなる。根室海峡に来遊するシャチの『なぜ?』を解き明かしていきたい」と協力を呼びかけている。
クラウドファンディング(
https://readyfor.jp/projects/hokudai-shiretoko-orca
)は今月末まで。目標金額は300万円で、これまで約240万円(12日時点)が集まっている。支援金額によってシャチのPC用壁紙写真や羅臼沖のシャチ個体識別カタログ、調査報告書への名前の記載、調査報告を兼ねたサイエンスカフェ(大阪や札幌などで開催)への招待もある。(奈良山雅俊)