1960年代末に国民的人気を博したグループサウンズ「ザ・タイガース」。そのドラマーとして活躍したのが、「ピー」こと、瞳みのるさん(72)だった。しかし71年に解散すると、こつぜんと芸能界から姿を消してしまう。そこには、「師」とあおぐ作家の故・柴田錬三郎さんの言葉があった。
ザ・タイガースは67年2月に「僕のマリー」でデビュー。しばらくするとメンバーたちは、文化人や芸能人が集う東京・六本木のイタリア料理店に出入りするようになった。そこで出会う人、聞く話は、当時20歳だった瞳さんにとって刺激的だった。「まるで別世界にいるようでしたね」
何度か通う中で、当時人気作家だった柴田さんを紹介された。その後、店で何度も顔を合わせ、話をするようになった。一方、ザ・タイガースも、「花の首飾り」などのヒット曲を次々と飛ばし、爆発的な人気を博すようになる。
あるとき、東京・高輪にある柴田さんの自宅に招かれ、いろんな話をしている中で、こう言われた。
「お前のやっていることは、虚業だよ」
自問自答の末、気づいた
「人気というのは、実態がつかめないだろ? 不安定なもので、いわば虚妄の世界なんだよ。常に変動して、人が決め、自分ではコントロールできない」
「虚と実。そういう見方があるんだ」。目を見開かされる感覚だった。メンバーの加橋かつみさんが脱退する半年ほど前、68年の後半だったと記憶している。
何が実業なのか。「実態のあるもの」を求め、自問自答を続けた。事務所との考え方の違いもあり、歌手をやめて、役者やカメラマンになることを考え始める。一時は柴田さんのつてで、俳優としてある事務所に入りかけた。「でも待てよ。それだと芸能界の延長じゃないか」。最終的に行き着いたのは「学問」だった。バンド活動を始めるころ、高校をやめていた。「そうだ、俺は勉強したかったんだ」
69年の終わりころ、事務所に…