アガリクスを使った健康食品について「がんが消滅する」と宣伝した本の出版社が薬事法違反容疑で摘発された事件で、末期がんの妻のためにアガリクス商品を買った夫(77)=山口県防府市=が毎日新聞の取材に応じた。「手遅れだと医者に告げられた妻に、わらをもつかむ思いで勧めた。あれがいんちきだったとは」。怒りに声が震えた。
◇いちるの望み、商売に…妻亡くした山口の77歳夫が憤り「いんちきとは」
2歳年下の妻が末期の肝臓がんと診断されたのは昨年9月。入院したが、「手術はできない」と医師に言われた。がんに関する本を書店で探していると、一つのサブタイトルが目を引いた。「末期ガンが完治した33人の証言」。史輝出版の書籍「即効性アガリクスで末期ガン消滅!」だった。
「再発ガンがきれいに消えた」「『余命半年』が1年たっても健在」……。名前入りの体験談を、時間を忘れて読んだ。巻末に書かれた「商品の問い合わせ先」に電話をすると、応対した女性の声は「2、3カ月で必ず結果が出ます」と明るかった。救われる思いがした。
「即効性アガリクスS」のビン入りを3本、約13万円で買った。甘酸っぱいにおいのするクリーム色のカプセル。「いい薬らしい」と妻に差し出すと、「飲みやすい」と答えた。食欲が衰えていた妻は、お湯に溶かして指示書の通りに30~40錠を毎日飲んだ。
しかし、がんは消えず、妻は入退院を繰り返し今年5月に亡くなった。7月に警視庁の捜査員から連絡があり、「がんを消す」効能に裏付けがないことを知った。「身内が重い病気になれば、なんとしても生きながらえさせたいもの。その思いを利用された」と悔しさを隠さない。
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警視庁生活環境課の調べで、本で紹介された体験談は「ねつ造」であることが分かった。5日に薬事法違反容疑で逮捕された6人の容疑者のうち、「即効性アガリクスS」の販売会社「ミサワ化学」の代表、三沢豊容疑者(58)は史輝出版の元役員でもあり、本の出版費用はミサワ化学が負担していた。同課は、こうした悪質な「タイアップ商法」の実態解明を進めている。【合田月美】