◇家庭用も工作キットも
プラネタリウムがブームだ。それも子供でなく、大人たちに。入館者が増え、自宅で楽しむための機器も売れている。なぜ今、星空なのか。【五十嵐英美】
東京・青海(あおみ)の日本科学未来館では連日、開館前から入館者の行列ができている。お目当ては、約500万個の星を映し出すプラネタリウム「メガスター2・コスモス」。肉眼では見えない12・5等星まで投影できる。一般のプラネタリウムでは約40万個というから、けた違いに多い。同館長で宇宙飛行士の毛利衛さんが「スペースシャトルから見た星空そのもの」と感動し、導入したという。
製作したのはプラネタリウムクリエーターの大平貴之さん(35)。コーヒーの「ネスカフェ」のテレビCMに、俳優の唐沢寿明さんと登場している人と言ったらお分かりだろうか。小学生でプラネタリウム作りに目覚め、大学時代の91年、個人では不可能といわれたレンズ投影式プラネタリウムを完成させた。電機メーカーに就職後も製作を続け、「メガスター2」はその最新作。フリーになり、愛・地球博などで移動公演も行っている。この夏、大平さんをモデルにしたテレビドラマ「星に願いを」(フジテレビ系)も作られた。とにかく今、超売れっ子なのだ。
日本科学未来館でさっそく見せてもらった。「新しい眺め」という30分番組で、テーマは「人はなぜ、夜空を見上げるのだろう?」。
文字通り、降り注ぐ星々。天の川が小さな星でできているのもよく分かる。波の音、虫の音、小川のせせらぎなどの効果音とともに四季の夜空が展開する。人ははるか昔から星空を暦とし、道しるべにしてきた。「夜空を眺めることは生きることとともにあった」とナレーション。なるほど。地上400キロの宇宙ステーションからの眺めもあり、想像力をかきたてる。広報室の西祐美さんは「星座の説明などはほとんどない、大人向けの番組。最近はカップルが増えました。癒やしブームと関係があるのでは」と話す。
◆都会の癒やし
東京・池袋のサンシャインシティにある「サンシャインスターライトドーム“満天”」は昨年3月、改装オープンした。やはり来場者の7割はカップル。支配人の河野徹也さんは「都会の中のオアシス。会社帰りにちょっとくつろいでもらえれば」。午後7時からの「ヒーリング番組」はまさに癒やしの内容。現在は「二十四節気」をテーマに秋の星座を紹介しているが、CGの映像と環境音楽に加え、秋の森や花々の甘い香りを流す演出もある。ロマンチックだし暗いし、プラネタリウムはデートにぴったりと再確認した。
日本プラネタリウム協会によると、国内のプラネタリウム施設は約300館。米国に次ぐ世界第2位という。バブル期には毎年10施設以上がオープンしたが、入館者は90年をピークに減少。象徴的な存在だった東京・渋谷の五島(ごとう)プラネタリウムも01年に閉館した。
それが、この秋はどの施設も好調とか。「スペースシャトルの打ち上げ再開などで、今年は宇宙の話題が盛り上がっていますから。都会ではなかなか見えませんが、星空を見る欲求は誰もが持ち合わせているのだと思います」と河野さんは話す。
◆インテリアに
自宅の天井などに星空を投影できる家庭用プラネタリウムも人気を集めている。玩具メーカーのセガトイズが大平さんと共同開発した「ホームスター」は8月の発売以来、3万台を売った。業務用と同じ光学式は家庭用では世界初。幅約17センチ・高さ約16センチの機器を部屋の中央に置くと、天井や壁に星空が展開する仕組みで、約1万個の星を投影できるという。定価2万790円と安くはないが、店頭では品薄状態が続いている。広報担当者は「自宅で手軽に星空を見られればと開発しました。言わば、『現代人のためのリラクゼーションツール』。部屋のインテリアに買う方もいます」。
高輪プリンスホテル(東京都港区)では、客室にホームスターを貸し出す宿泊プランを用意している。セガトイズはさらに、来月末、携帯用ホームスター(定価1050円)も発売予定。万華鏡のように、上から中をのぞくと星空が見えるという。
一方、学研の「大人の科学マガジン」最新号は「星と宇宙」を特集。大平さん監修のプラネタリウム工作キットが付録でついている。7万部を完売する創刊以来のヒットで、来月には増刷の予定だ。プラネタリウムは簡単なピンホール式のもので、約1万個の恒星データが入った正五角形のフィルムを張り合わせて正十二面体を作り、中に豆電球を入れると星空が映し出される。同誌の購読層は40代男性が中心だが、今回は女性や若い層にも受けているという。
◆その先の宇宙は…
最後に大平さんに聞いた。「正直、ブームに驚いています。私と同じように星が好きな人が多いんだなあと。『きれいなものを楽しみたい』という需要に応えるものが、ありそうでなかったんでしょうね。星空を見て、ああ、きれいだなと感動するというのは、ある種、本能的なものなのではないでしょうか」
なぜ私たちは夜空を見上げるのでしょう? 「一つは不思議だからでしょうね。空というのは自分の力だけでは行けない。その先に光っている星、宇宙というのはやっぱり不思議。人間は好奇心がありますから。それに星がきれいだからでしょう。なぜきれいと感じるか? その答えはなかなか出ません。私も自問自答しながらやってます」
旅行会社が宇宙旅行を売り出すなど、宇宙への夢は広がるばかり。だが、日本科学未来館の説明によると、現在見ることのできる星などの物質や物体は、宇宙の構造上、全体のわずか4%に過ぎないのだとか。その夢やロマンを追う「大人」に、プラネタリウムはぴったりの楽しみなのかもしれない。
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