日本を代表する企業が、またも談合に手を染めていた。17日、重電各社への強制捜査に発展した「成田国際空港」(旧・新東京国際空港公団)発注の電機関連工事を巡る官製談合事件。一時は迷走した捜査の突破口になったのは、受注予定社名がずらりと並んだ「配分表」だった。重電各社には、日本下水道事業団事件(95年)で発覚した根深い談合体質があり、他の分野でも不明朗な入札を繰り返しているとの指摘もある。捜査はどこまで業界の暗部に迫れるのか。【篠田航一、斎藤良太、高島博之】
◇「任意捜査なのに、なぜ提出したんだ」…某メーカー幹部
「捜査はどこまで広がるのか」。ある重電メーカー幹部は、不安な表情を浮かべた。
約1カ月前、この幹部は「今の時代に談合などあり得ない」と、疑惑を全面的に否定していた。記者が高い落札率(上限価格に占める落札額の割合)を示す一覧表を示しても、余裕たっぷりで受け流した。
ほぼ同時期に始まった特捜部の聴取は、今回の捜索容疑となった旧空港公団とは別の公共工事に関するものだった。「発注者の官庁から入札情報を取り、談合したのではないか」。厳しい追及にも、各社の営業担当者は否定を続け、捜査は一時迷走した。
しかし先月下旬ごろ、東京地検特捜部は、中堅メーカーから配分表を入手した。入札予定時期や工事名、受注予定社、金額などが記載され、一目で官製談合と分かる重要な資料だった。
“切り札”を手に勢いづく検事に、一社、また一社と供述を変えた。「あんなもの(配分表)を示されたら認めざるを得ない。任意捜査なのに、なぜ提出したんだ」。あるメーカー幹部の口からは恨み節も漏れた。
◇重電業界各社、他の入札でも談合繰り返す
重電業界のトップ3は日立製作所、東芝、三菱電機。これに富士電機(当時)、明電舎を加えた5社が大手で、高岳製作所、日新電機といった中堅メーカーが続く。家庭用とは異なる大型電気設備を製造するため、重電メーカーと呼ばれる。捜査対象となっている成田空港の電機関連工事では、エプロンなどで使われる航空灯火監視制御設備やターミナルビルのエレベーター、到着表示装置などを受注している。
業界の談合体質が白日の下にさらされたのは、官製談合として初摘発となった95年の日本下水道事業団事件。重電の9社17人と、事業団の工務部次長(当時)が起訴され、東京高裁は96年5月、全被告を有罪と認定し「会社と発注者が重層的に連携した計画的な犯行」と断罪した。
この談合では「表」の営業担当者と「裏」の談合専門社員が組み、各社の本社で堂々と「ドラフト会議」という名の受注調整を行っていた。今回は、担当者同士が顔を合わさないよう、電話だけでやり取りしており、巧妙化したとも言える。
下水道事業団事件の判決直後、各社は「全社を挙げて再発防止の徹底を図る」などとするコメントを相次いで出した。明電舎は約50ページに及ぶ「独禁法順守マニュアル」を作成。内部告発や相談を受けるため、社内に220人の「コンプライアンス(法令順守)マネジャー」を配置した。三菱電機も02年、内部通報制度を新設。グループ会社も対象に、法令順守を呼び掛ける説明会を開催するなど、各社が取り組みを強化した。しかし、その数年後には、今回の談合に手を染めていた。
各社は、他の入札でも談合を繰り返してきた。東芝は98年11月、郵便区分機談合で公正取引委員会から排除勧告を受けた。三菱電機は95年3月に大型映像装置で、富士電機(当時)も95年8月に上水道設備工事で、公取委から課徴金納付命令を受けている。
あるメーカー幹部は「『違法行為はだめだ』と、社員教育の場で何度も注意してきたのに」と頭を抱えた。下水道事業団事件の捜査にかかわった経験のある法務・検察幹部は「重電の談合体質はゼネコン(総合建設会社)に次ぐ。違反したら会社が傾くぐらい厳しい法律に変えなければ一掃は無理」と言った。
◇国民への背信行為だ
談合事件に詳しい鈴木満・桐蔭横浜大学法科大学院教授(経済法専攻) 旧日本道路公団の官製談合が明らかになっており、成田で官製談合があったと聞いても、もはや驚かない。公団官僚たちは、工事の発注を自分たちの利権とし、もうけを業者に与えることで、天下り先というキックバックを得ていたのではないか。納税者である国民への背信行為だ。
一般的な工事ならば、指名競争入札をやめ、全面的に一般競争入札に移行させるなどの入札改革によって、談合を防ぐことはできる。しかし、今回の電機設備のような寡占的な状況では、罰則によって抑止するしかないのではないか。来年1月に施行される改正独占禁止法で課徴金が引き上げられ、裁判所が出す令状に基づく捜索・差し押さえができるなど犯則調査権限が公正取引委員会に与えられることは、一定の抑止力になると思う。
しかし、刑法の談合罪(懲役2年以下または罰金250万円以下)は軽すぎるので見直さなければならない。談合は自由経済を阻害する「悪」として、厳しく対処すべきだ。