高齢者の医療費の負担増を柱とする医療制度改革関連法が14日午前の参院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。今年10月から慢性病患者向けの療養病床(医療型、25万床)に入院する70歳以上の人は、光熱費や水道代が全額自己負担に切り替わる。70歳以上で現役並みに所得のある人(夫婦世帯で年収約520万円以上、単身世帯で約380万円以上)の医療費の窓口負担は現在の2割から3割にアップする。
医療機関での窓口負担は、現役並み所得には届かない70~74歳の一般所得の人も08年4月以降、今の1割負担から2割へと倍増する。10月からの負担増としては、自己負担分の医療費が戻ってくる「高額療養費制度」の自己負担限度額を引き上げる(一般所得の70歳未満の人の場合、7800円増の8万100円)ほか、遺族に健康保険から所得に応じて支給している埋葬料を一律5万円に引き下げる。
制度面では、現行の老人保健制度を08年4月に廃止し、75歳以上の人すべてが加入する後期高齢者医療制度を創設する。財政運営は「全市町村が加入する都道府県単位の広域連合」が担い、保険料は広域連合ごとに設定する。
都道府県には、平均入院日数短縮幅などの数値目標を含めた医療費適正化計画を策定させ、計画未達成の都道府県には国が独自の診療報酬を設定できるようにする。また、政府は療養病床のうち介護保険適用の介護型(13万床)を12年度までに全廃、医療型も15万床に減らし、入院日数短縮の実現を後押しする。
厚生労働省はこうした策を組み合わせることで、25年度の医療給付費(06年度28・5兆円)を改革しない場合より8兆円減の48兆円に抑えられると試算している。
【吉田啓志】
◇「医療費削減ありき」の財政対策に偏り
14日成立した医療制度改革関連法は、「持続可能な医療保険制度」に主眼を置いている。ただ「医療費削減ありき」の財政対策に偏り、医療の質をどう維持し、発展させるかという点が伝わってこない。
関連法には「高齢者も一定以上の所得者は現役と応分の負担」という考えが貫かれている。一見平等にも思えるが、そこにはご都合主義も潜む。そもそも厚生労働省が高齢者の負担を軽くしてきたのは、お年寄りの方が体が弱く医者にかかる機会が多いためだ。高齢者の医療費は現役世代の5倍。「単価を減らすことで、やっと現役の負担と釣り合う」という考えに基づいていた。
ところが、枯渇する医療財政の前にはこの思想も撤回。次は高齢者の「経済力」に目を付けた。またも「現役との釣り合い」という理屈を添えたが、高齢者の負担割合を現役にそろえれば、負担額は5倍になる。医療費抑制を優先するあまり、お年寄りの身体的特性には目をつぶったも同然で、高齢者医療の質は二の次だ。
各地で大騒ぎになっている療養病床の削減も、泥縄に近い。昨年末、給付費抑制策の目玉として急きょ関連法に盛り込まれた。しかし、病院を追われる人の行き先は不透明なまま。「いかにも病床削減先行」と印象付けている。
医療界が直面する医師不足問題にも正面から答えていない。同省内にさえ「医師不足対策はもっと明快に打ち出すべきだった」という声が漏れている。【吉田啓志】
毎日新聞 2006年6月14日 11時52分