中国の道教には人の寿命を決める点数計算があるという。それぞれの行いを得失点で評価する「功過格」というもので、善行には得点(功)、悪行には失点(過)がつく。一定期間の得失点を計算し、得点が多いほど長生きするというのだ▲ある書では、殺人が100過、公私混同は10過、酒乱は5過、夫婦の不和は1過だが、友達の危難を救えば100功、他人の無実を晴らせば50功、美人を見てもウインクしなければ5功、言葉を慎めば1功だ。実にこまごまと点数がついている▲「世界広しといえども倫理や道徳を説くのに、その実践を長生きにむすびつける上に、点数の多少によってその軽重をあらわしているところは、中国よりほかにはないだろう」と窪徳忠さんは「道教百話」(講談社学術文庫)で述べる。分かりやすいにもほどがある善行の勧めだ▲ではお経を世に広めたり(100功)、兄弟によいことをさせた(同)人が多かったとでもいうのだろうか。厚生労働省が把握しているデータによる昨年の平均寿命の国際比較では、香港の男性が79・0歳で長寿世界一、女性も84・7歳で日本に次いで世界2位になっているという▲さて問題の日本人の方は男性が78・53歳、女性が85・49歳でいずれも6年ぶりに前年より短くなった。とくに男性は32年ぶりに世界ベスト3から姿を消している。むろん美女へのウインクとは関係なく、インフルエンザの流行で春先の肺炎による死亡者が増えてしまったのが原因らしい▲厚労省は寿命の短縮は一時的で、日本人の平均寿命が延びる傾向は変わらないという。善行と寿命をめぐる中国の独創的算術は一つの文化として珍重するにしても、やはり善行は善行、寿命は寿命である。それぞれ別々にのばしたい。
毎日新聞 2006年7月27日