9月に行われる自民党総裁選で最有力候補と見られている安倍晋三官房長官は、これまで属していた森派を離脱する意向を固めたという。
26日の記者会見では、「そもそも出馬すると表明したわけではない」と述べており、離脱表明は総裁選立候補宣言後になるものと見られる。すでに安倍氏の周辺には再チャレンジ支援議連など派閥横断的な形で中堅、若手議員が集まっている。森派離脱で広範な支持獲得を期待しているようだ。
旧来の自民党総裁選は、派閥間の合従連衡でほぼ勝負が決まった。非公式な組織であるはずの派閥が、閣僚や党役員をはじめとする人事だけでなく、重大な政策決定にも大いに影響を与えた。しかも、勢力の維持、拡大のため金権政治がまん延。金銭的不祥事が続き、政治への信頼はまったく損なわれた。「政治改革」により、政党助成金制度と衆院に小選挙区制が導入され、自民党内の派閥は急速に弱体化している。
派閥のヒエラルキーは当選回数、役職経験度などが基本だ。その階段をより高く上ることで、トップの素養は整えられた。だが、ポスト小泉の有力候補と目された「麻垣康三」で、派閥の領袖は谷垣禎一財務相だけだ。派閥の領袖であることがすでに総裁選出馬での必須要件ではなくなっている。
派閥に残された閣僚推薦権など人事での優位性も、小泉純一郎首相による派閥無視人事の出現で、過去の話になった。安倍氏の指摘通り、「サロン的な、政策集団的な性格が強まった」といえる。
安倍支持勢力と非安倍勢力との対立軸は、派閥間というよりは世代間の色彩が濃い。安倍氏が50歳代前半であることを、旧来の派閥リーダーたちは警戒している。それだけに、安倍氏の派閥離脱は、世代交代ムードを盛り上げる契機にはなるはずだ。派閥の流動化に一層弾みがつくだろう。
「麻垣康三」はいずれも小泉政権での有力閣僚経験者ばかりだ。世論調査で最も高い支持を得ている安倍氏も、次いで高い福田康夫氏も、内閣のスポークスマン役の官房長官に就いている。マスコミに登場する機会が多い程、国民的認知度が上がるのは当然だ。
自民党を支えてきた支持組織は弱っている。その分をカバーできる人気が党首には求められている。そのためには認知度を高めるポストを歴任することが、総裁候補の要件になった。
マスコミ人気の“賞味期間”は長くない。一時期まではポスト小泉の有力者に数えられていた「士志の会」の4人で、今回の総裁選に出馬すると見られるのは麻生太郎外相だけだ。
その一方で、トップリーダーを輩出するには「サロン的集団」で十分とはいえない。派閥政治は打破されて当然だが、同時に派閥に代わるリーダー育成システム作りも自民党には急務となっている。
安倍氏の派閥離脱の動きは、結党以来、半世紀もの間、自民党政治の一大特徴となっていた派閥政治の衰退を象徴している。
毎日新聞 2006年7月27日