医師になったころ、内分泌・代謝学の中で、糖尿病研究は最も人気がなかった。花形は脳下垂体などが分泌するホルモン研究。当時、国内の糖尿病患者は約100万人とされ、増加ペースにあった。「医師は患者あってのもの。患者の多い病気を研究したい」と、専門に糖尿病を選択。この思いは、国内で700万人を超す人が糖尿病に悩む現在、確信に変わった。
小さな研究室でコツコツとデータを集めた。血糖値を下げるインスリン分泌にかかわる物質の研究は、なかなか臨床応用の見通しが立たず、他の研究者は次々と手を引いた。だが、最近開発された新薬に、長年の成果が生かされた。「一つのことを粘り強く続ければ、いずれ花開く」と説く。
一方、従来の糖尿病のイメージが「(食事制限や合併症など)マイナス部分を強調しすぎた」と反省する。治療を受けなかったり、簡単に治療を中断する人が後を絶たない。「糖尿病向けの食事は、まさに健康食。軽い運動も、さまざまな病気の予防になる。ほんの少しの心がけと適切な治療が、快適な日常生活を維持する秘けつです」
国際糖尿病連合西太平洋地区はアジアからオセアニアまでの21カ国が入る。人種も医療レベルも多様だ。12月から会長をサポートする候補者を3年間務め、その後は会長としてかじ取りをする。「教育、研究を推進し、地区内の誰もが適切な治療を受けられる基盤を作りたい」。新たな目標に柔和な表情が引き締まった。【永山悦子】
【略歴】清野 裕(せいの・ゆたか)さん 67年、京都大医学部卒。神戸大助手などを経て、96年に京大教授。04年から関西電力病院長、日本糖尿病協会理事長を務める。64歳。
毎日新聞 2006年8月4日