薬害エイズ事件で「官民癒着の温床」として製薬企業や業界団体への天下りが批判を浴びた旧厚生省(厚生労働省を含む)の局長、審議官らOB39人が事件後、計15の製薬企業や業界団体に天下りしていたことが、毎日新聞の調査で分かった。同事件で処分を受けた元幹部2人も含まれている。事件後、被害者側は「製薬企業・関連団体への天下りの永久禁止」を求めたが、その声を無視する形で再就職が繰り返されていた。
調査は、▽04年度の医薬品売上高上位20社の製薬企業▽業界団体「日本製薬団体連合会」(日薬連)▽日薬連傘下の16団体--を対象に、事件摘発後の97年1月以降のOB採用状況についてアンケートで行った。回答が無かったり不十分な場合は独自に調査した。
製薬企業への天下りは3社計4人。田辺製薬に2人、中外製薬と事件の舞台になった三菱ウェルファーマ(旧ミドリ十字)に各1人だった。業界団体は、17のうち12団体が計35人のOBを受け入れ、トップは日本製薬工業協会の6人。日本血液製剤協会が5人、日薬連、医薬工業協議会、日本臨床検査薬協会が各4人と続く。
このうち、事件に絡み「責務を果たさなかった」として訓告処分を受けた斉藤勲・元官房審議官は退職2カ月後の96年9月、東京医薬品工業協会に理事長として天下り。04年5月に退任すると同月、日薬連の理事長に就任した(現職)。エイズ関連資料の調査や報告が不適切だったとして厳重注意を受けた鶴田康則・元官房審議官は、05年1月から日本大衆薬工業協会理事長を務める。
厚労省出身者が団体の特定ポストを独占するケースもある。医薬工業協議会は常務理事を、日本臨床検査薬協会は事務局長を、各4代にわたってOBで受け継いでいる。
天下りを巡っては東京HIV訴訟原告・弁護団が97年3月、旧厚生省に「団体や企業への天下りで(安全な加熱製剤開発が遅れるなど)行政の決定過程がゆがめられた疑念がある」として、天下りの全面禁止を求めた。【小林直、堀文彦】
▽厚労省人事課の話 再就職は個人情報であり、コメントする立場にない。問題ないと考えている。
▽旧日本道路公団の民営化推進委員として天下り問題などを追及した評論家、大宅映子さんの話 企業であれ業界団体であれ、天下りが問題なのは、行政の監視・監督が甘くなるのと同時に、天下るための無駄な組織が作られてきた体質にある。特に薬害エイズ事件の処分者の天下りは「本当に事件を反省しているのか」と疑念を抱かせ、国民感情、特に被害者感情からかけ離れている。根を絶つには多くが50歳そこそこで退職せざるを得ないシステムにメスを入れ、採用を減らす代わりに定年まで在籍できる組織を作るべきだ。
毎日新聞 2006年9月1日