駅前の放置自転車が減っている。駐輪場の整備や大掛かりな撤去という従来型の手法が主流だが、民間への一括委託で効果を上げる自治体もある。「駅前すっきり作戦」の最前線を探った。【坂巻士朗】
東京都江戸川区のJR平井駅。駅前広場に自転車を止めようとした人に「駐輪場までお願いします」と声をかけるのは、啓発指導員と呼ばれる誘導係だ。土日も含め午前7時から午後5時まで、4人が常駐する。
同区は昨年4月から、「駐輪場の運営」「撤去作業」「啓発活動」を、区内七つの駅ごとに1業者に一括委託した。区駐車駐輪課長の桑江一久さん(57)は「これまでは行政、民間業者、住民がバラバラに活動していたため、実績が上がらなかった」と説明する。委託前に7駅で計3617台だった放置自転車は委託後、4分の1の932台に減少。平井駅では、駐輪場利用率が65%から98%に上昇した。
撤去には1台あたり2500~4500円かかる。駐輪対策に毎年2億5000万円の赤字が出ていた。今後、駐輪場収入が増えれば赤字を解消できる、と見込む。
内閣府が隔年でまとめる全国調査では、昨年秋のある1日の放置自転車台数は約38万7000台で、前回より5万台、ピークの81年の4割にまで減少した。内閣府共生社会政策担当の参事官補佐、内山正人さん(36)は「放置自転車対策の3本柱は、駐輪場の整備、強制的な撤去、適正な駐輪の呼び掛け。この三つがバランスよく行われている自治体が成果を上げている」と指摘する。撤去だけだと「どこに止める」と文句が出るし、呼び掛けないと駐輪が増えない--ということだ。
このバランスが取れないと、放置と撤去のいたちごっこになる。放置が1863台と、東京都内で最も多い池袋駅。「毎日撤去活動をしているのですが」と豊島区自転車施策担当係長の広瀬陽一さん(43)は嘆く。昨年度の区内の撤去台数は、5年前の2倍にあたる4万5616台。放置自転車は減ってはいるものの、駐輪場不足が響き、目立った改善につながっていない。
同区は03年、鉄道事業者に放置自転車対策のための負担を求める課税条例を定めた。以降、事業者と話し合いを続け、今年になって池袋駅周辺で計1700台が駐輪できる土地提供の申し出などを受けたため、条例を取り下げた。広瀬さんは「5年後には効果を上げられるはず」と期待する。
放置が3194台で全国最多になった名古屋駅には、周辺に計5500台分の駐輪場がある。ところが、無料という利用しやすさが自転車の数を増やし、駐輪場からあふれた自転車が歩道をふさぐ皮肉な結果を招いた。市自転車駐車対策室は「有料化で自転車の数を減らす検討を始めた」と話す。2位の大阪駅の周辺には、公営駐輪場が約600台分しかない。大阪市路政課は「駅前の一等地にこれ以上、駐輪場をつくるのは難しい」と頭を抱える。
東京都三鷹市は7月、三鷹駅前の地下に、新型の立体駐輪場を導入した。自動車用のタワー型駐車場に似たもので、利用者が入り口に自転車を置くと、自動的に空きスペースに収められる。従来の駐輪台数は580台だったが、立体化で1700台が止められるようになった。用地確保に悩む自治体の新手法になる可能性も秘めている。
毎日新聞 2006年9月5日