東京都足立区の小学校教諭、石川千佳子さん(当時29歳、北海道小樽市出身)が78年に勤務先の警備員の男(70)に殺害、遺棄されていたことが04年に男の自首で発覚した事件で、遺族側が男と男を雇った同区に総額約1億8644万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、東京地裁である。損害賠償を請求できる除斥期間(20年)をどの時点から起算するかが最大の争点。刑事では公訴時効(15年)のため不起訴となっており、遺族側は「時間の壁で男に二度までも逃げられては本人が浮かばれない」と判決に望みを託している。殺人事件を巡る損害賠償請求訴訟で民法上の除斥期間が争点となるケースは極めて珍しい。【和田浩幸】
【除斥期間】 一定期間の経過により、権利が消滅することを定めた制度。民法724条は不法行為に対する損害賠償請求権は、その行為が行われた時点から20年で消滅すると規定している。
◇不起訴の男に「民事訴訟でけじめを」
訴状などによると、男は78年8月14日、校内で石川さんを殺害し、当時の自宅(同区)床下に埋め、04年8月に自首した。男の不起訴処分を受け、石川さんの弟憲さん(55)=小樽市=ら遺族側は昨年4月に提訴。「被害者の遺族が殺害行為の事実を知った04年から除斥期間を起算すべきだ」と訴えるが、男や足立区側は「遺族の損害賠償請求権は消滅している」と主張している。
男から謝罪は一度もない。法廷に姿を現すこともなく、殺害の動機や経緯は明らかになっていない。憲さんは「法律を盾に逃げ回る卑劣な男にせめて民事訴訟でけじめをつけさせたい」と憤る。
「小樽に帰ろう。必ず敵を取ってやるからな」。04年10月14日、警視庁綾瀬署の遺体安置所で自身の結婚式以来28年ぶりに再会した姉の遺骨に心の中で誓った。遺骨は部分ごとにビニール袋に入れられ、長さ約1.3メートルの小さなひつぎに納められていた。
東京地裁には裁判官や弁護士との打ち合わせを含め計9回足を運んだ。日時や出席者の氏名、やり取りの内容などを記したメモはA4判用紙で数百枚に上る。
旅費の出費はこれまで約100万円。道路舗装会社の契約社員で、年収は300万円余り。仕事を休めば給料は減る。「金目当てでは」などと陰口もたたかれた。
「裁判所が遺族に配慮した判決を出してくれることを祈るしかない。控訴にも金がかかるし、これ以上長引けば体が持たない」。姉との約束を果たすためにこの機会を逃すわけにはいかない。
毎日新聞 2006年9月25日