売り物にしていた「クリーンな知事」というイメージは虚構だったのだろうか。福島県の佐藤栄佐久前知事が収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。実弟が談合に関与していたとして9月に逮捕された際、知事を辞職したが、それはあくまで道義的責任を取ってのことで、自らは「身ぎれいにやってきた」と潔白を強調した。汚職に手を染めていたとすれば県民への重大な背信である。
県発注の木戸ダム建設工事入札をめぐり、ゼネコンの受注に便宜を図った見返りに、弟が会長を務める衣料メーカーの土地取引で時価を超える多額の代金を受けたという容疑だ。弟も再逮捕された。
弟が知事の威光を背に、県発注工事で建設業者間の談合を取り仕切って受注業者を決定し、その謝礼として資金提供を受けてきたといわれてきた。しかし、実は知事本人が不正に深くかかわる「官製談合」の構図だったことになる。5期18年にわたった長期県政で清廉を看板に掲げ続ける裏で、弟を隠れみのに不正を行っていたとすれば、言語道断だ。
福島県では30年前、当時の木村守江知事が汚職事件で逮捕された。同じ都道府県で知事経験者が2人も逮捕された前例はない。佐藤前知事も、汚職事件がいかに県政に混乱と停滞を招くかを認識していなかったはずがない。しかも、佐藤前知事は地方分権を推進する知事の一人と評価されてきた。「地方の時代」への失望感をもたらした点でも、前知事の罪はいっそう重いと言わざるを得ない。
公共工事で大きな権限を持つ知事に建設業者が群がり、知事の「天の声」によって受注業者に選んでもらうためにわいろを提供する。一方で、受注がスムーズに進むように業界内で談合を繰り返す--。93年に当時の茨城県知事と宮城県知事が逮捕されたゼネコン汚職事件は、知事と建設業者との癒着の構図をあぶり出した。事件を教訓に、各自治体は不正を生まないための入札制度改革などに取り組んできた。しかし、汚職の温床は根絶されなかったことになる。
福島県では00年、入札の透明性を向上させる目的で、発注工事の入札予定価格を事前に公表する制度を導入した。その初年度の目玉工事が皮肉にも容疑対象の木戸ダムだった。事前公表によって落札価格を高く設定できる分、業者の談合がよりスムーズになった面もあり、ダムの落札価格は予定価格の97%にも達する結果を招いた。
本来なら県政をチェックすべき県議会が全く機能していないことも問題だ。それどころか、04年の福島県知事選に絡み、多くの県議が弟から現金を受け取っていたという。腐敗を生む土壌は根深い。
和歌山県でも、知事側近の出納長が県発注工事の官製談合に関与した疑いで逮捕されたばかりだ。二つの事件は、公共工事の入札のあり方をめぐり、抜本的改革が急務であることを示している。
出直しの福島県知事選は26日に告示される。各候補者は、汚職と決別し、腐敗を生まない入札制度の方策を提示してほしい。
毎日新聞 2006年10月24日