広島市安芸区の知的障害者更生施設「あとの郷」で03年4月、当時の施設長(69)が男性入所者(38)に暴行を加えて負傷させたとして傷害罪で略式起訴され、昨年8月に罰金刑が確定していたことが21日分かった。男性側は「暴言や暴力による虐待が日常的に繰り返されていた」などとして、施設を運営する社会福祉法人「無漏福祉会」と元施設長、行政責任のある広島市を相手取り、総額1100万円の損害賠償を求める訴えを22日にも広島地裁に起こす。
難聴や重度の自閉症で意思疎通を図ることが困難だった男性は、暴行を受けた後、精神的に不安定になり、隔離病棟での治療を余儀なくされた。現在も入院治療を続けており、成年後見人を務める両親が「虐待で精神的苦痛を被ったことは明らか」と、民事上の責任を問うことにした。両親は「第2、第3の被害を出さないためにも訴訟に踏み切った」としている。
訴状などによると、男性は02年8月に入所。03年3月16日、男性が施設を汚したことに腹を立てた元施設長は「ばかたれ」などと怒鳴りながら頭を殴ったり、背中を踏むなどした。さらに同4月21日、他の入所者の本を返さずトラブルになった際、「このぼけ」などと怒鳴って背中をけるなどしてけがをさせ、この件が傷害罪で立件された。
施設への不満から同5月に男性を退所させた際、顔にあざがあり、両親は虐待を疑うようになった。元職員の証言で、元施設長の暴行が判明し、05年11月、広島地検に傷害容疑で刑事告訴した。
元施設長は容疑を認め、広島簡裁で罰金30万円の略式命令が出た。
損害賠償提訴にあたっては、元施設長が当時、法人理事長も兼任していたことや、入所が広島市による「措置入所」だった--などの理由で、法人や同市も被告とした。
同法人は取材の申し入れに応じていない。広島市障害福祉課は「訴状を見て対応したい」としている。【宇城昇、下原知広、大沢瑞季、井上梢】
毎日新聞 2007年3月22日 3時00分