米サンノゼ市で開催された家電向けLinux関連の業界団体「CE Linux Forum」(CELF)の会議「2005 CE Linux Forum Plenary」では,家電業界とオープンソース陣営がお互いに理解するまでに時間がかかりそうであるという現実が浮き彫りになった。こうした傾向が特に現れたのは,Linuxバージョン2.6カーネルの管理者Andrew Morton氏とCELFのメンバーが参加したパネル討論だった(図1)。Linuxの開発のプロセスには,企業向けサーバに関心があるプログラマが多く参加している。討論会で,「(Linuxの父である)Linus Torvalds氏と私は,組み込み機器業界からの貢献を待っている」と宣言したが,「実際には,組み込み機器メーカーのプログラマが開発したコードはそれほど多くないのが実情」とMorton氏はいう。
オープンソースの開発プロセスではあるプロジェクトを作成するために複数の人からコードの提供を受ける。その後,参加メンバーが意見を交換しながらプロジェクトに残すコードを決める。Morton氏は各業界から要求を平等に聞くが「1年前にTim Bird氏(CELFのArchitecture Group担当Chairで,米Sony Electronics Inc.のLinux Architecture and Standards担当Senior Staff Engineer)から家電業界の要求は聞いている。ところが,だが,家電業界からはコードがあまり出てきていない」とする。
どのようにオープンにするか こうした背景には,厳しい開発競争を繰り広げる家電メーカーにとって,自社が開発したプログラムをオープンソースとして公開することにためらいがあるという現実がありそうだ。CELFのメンバーが会議で示した多くのプレゼン資料に「CE Linux Forum Member Confidential」(CELF会員のみ開示)と書かれていたこともこれを裏付ける。このほかにも組み込み機器向けLinuxの開発には壁がある。テストのためにさまざまな組み込み用途向けのマイクロプロセサで実行するための環境を備えることが難しい。この点について,CELF会議に参加したLinux系プロジェクトの管理者は,開発者は必要ならばテスト・プラットフォームを借りるための機密保持契約を結ぶことができると指摘した。
組み込みLinuxの開発を阻むもう一つの壁は,アジア地域の家電メーカーに勤務するプログラマが,主に英語で行うオープンソース陣営の激しい議論に参加することが難しい点である。Morton氏によると,Linuxカーネルに関するメール・リストのやり取りの中にアジア諸国のプログラマが参加することは少ないという。CELFの会期中にはこうした現実を象徴する出来事があった。携帯電話機に向けたLinuxについて検討する「Mobile Phone Profile Working Group」が開いた会議でNECと松下電器産業が携帯電話機プロファイルのために新たなAPI(application programming interface)を定めたと報告したが,資料は日本語のみで記述されていて,英語版を公開するのは2005年3月になると説明した。
Morton氏によると,今後も家電業界からのLinuxの技術進歩への貢献はそれほど期待できないという。「コード・サイズをコンパクトにしたり,多くの種類のマイクロプロセサを対応させるといったプロジェクトについては,現状のままでうまくいっていると思う」(Morton氏)。 |