愛知県一宮市の路上で16日夜、無職男性(54)が散弾銃で射殺された。逮捕されたのは2人の猟友会員。飲食店でのいざこざの末、許可を受けた銃が殺人に使われた。警察庁によると、許可銃の所持者は昨年、全国で約19万人。銃は約40万丁に達し、毎年2万丁が新たな許可を受ける。必要性の有無にかかわらず、要件を満たせば誰でも所持できるが、殺人などの事件に使われるケースも頻発。より厳しい要件や管理を求める声もある。許可銃の現状を追った。【中井正裕、加藤潔】
◇殺人で使用も 規制求める声強く
「会えば必ず笑顔であいさつする人。よほどのことがあったのでは」。殺人容疑で逮捕された顔辰憲容疑者(41)を知る男性(62)は驚く。顔容疑者は同市内で一人暮らし。休日には自宅近くで、経営する運送会社の社員や家族を招いてバーベキューを楽しむ姿が見られた。98年に許可を取得し、散弾銃とライフル銃を1丁ずつ持つ。同じく逮捕された柳田照和容疑者(44)は、84年に許可を取得した銃歴20年以上のベテラン。散弾銃1丁とライフル銃2丁を持っていた。事件に使われたのは、顔容疑者の散弾銃だった。
同庁によると、許可銃では散弾銃が圧倒的に多く、全国で約17万人が約28万丁を所持。一方、昨年までの5年間で630丁が取り消しを受けた。
許可銃を使った重大事件は昨年もたびたび起きている。主な事件では▽110番通報で出動した警察官2人に男が散弾銃を発砲して負傷させ、自殺(1月、兵庫)▽建物に散弾銃を乱射した後、逃走して通行車両にも発砲(3月、三重)▽口論となった長男を父親が散弾銃で射殺(5月、千葉)など。過去には盗難銃が使われた凶悪事件もあった。
愛知県警は「悪用や盗難の恐れもあり、警察としては銃の許可はなるべく出したくない」と本音を漏らす。しかし、欠格事項に触れなければ許可せざるを得ない。同県猟友会の篠原則昭事務局長(72)も「違反や事故がないよう会員を指導しているが、殺人はそれ以前の問題」と頭を抱える。
銃規制の強化を求めている市民団体「ストップ・ガン・キャラバン隊」の砂田向壱代表は「所有者任せで、各家庭で保管している銃の管理を公的な保管場所で行うべきではないか。『人は間違いを起こす』という前提での予防策が重要」と提言する。
また、治安問題に詳しい小宮信夫・立正大助教授(犯罪社会学)は「日本の治安維持が比較的成功した要因の一つは銃規制。しかし、欠格事項に当たらなければ誰でも合法的に所持できる現行制度に盲点はないのか。銃の必要性をもう一度根本的に考える必要がある」と指摘する。
◇銃所持試験、9割が合格
銃刀法の規定で、所持ができるのは原則として猟銃が20歳以上、空気銃は18歳以上。「他人の生命を害する恐れ」など欠格事項に該当しない人で、国籍は問わない。手続きは、都道府県公安委員会が開く猟銃等講習会(学科)を受講。試験に合格して修了証明書を取得した後、射撃教習(実技)を受け、申請資格を得る。試験の合格者は同講習会受講者の9割に上るとも言われる。申請窓口は地元警察署。担当課が精神障害や薬物中毒、過去の犯歴などの欠格事項を確認し、複数回の面接で適性を審査。近所の評判や勤務状況を調べることもある。