楽天がTBSの株式を20%弱まで取得し、お互いのシナジーを生み出せるようなアライアンスを申し入れている。相変らずIT企業は著作権問題の難しさを理解しておらず、ライブドア問題からは何の学習効果も得られていないようだ。(西正)
◇コンテンツはテレビ局が抱え込んでいるわけではない
テレビ局のエンターテイメント系のコンテンツをネット上で使いたいという気持ちはよく分かる。特にバーチャルのショッピングモールを展開することで成功した楽天にとっては、リアルな郊外型のアウトレットモールにおけるようなシアターを持ちたいという気持ちも分かる。
しかし、春先のライブドアとフジテレビの攻防の際に語られたように、いくらテレビ局との関係を強化したところで肝心のコンテンツが出てこないことは明らかである。いくら著作権問題の処理が難しいのだと説明しても、結局はテレビ局が抱え込んで放さないのだろうという勘違いは変わらないようだ。
確かに、春先の頃と、現在とでは、テレビ局のネットに対する姿勢は変わりつつあるように見える。もともとテレビ局は、一度制作した番組を地上波だけの放送で終わらせることなく、複数の媒体に二次利用を行っていきたいという気持ちは強く持っている。5年前と比べれば、驚くほど変わったのが、ネット利用者の急増ぶりである。流通させる機能に関しては、ネットは大変に大きな効果を持つ。
当然のことながら、テレビ局としては過去に制作した番組をネット配信することによって、十分な利益が上がるのであれば、ネットに配信したいと考えている。
そうした時勢に乗るかのように、経団連を通じて、今年の4月から来年の3月までの間の暫定としてネット利用する際のギャランティーも含めた料率を明示した。
ここに来て、「フジテレビon demand」、「第2日本テレビ」、「TBS BooBo BOX(ブーブ・ボックス)」と、テレビ局のコンテンツがネットに出てくる気配が強まったかのように見えることから、春のライブドア問題の時とは状況が変わってきたように思われたのかもしれない。
しかし、経団連を通じて発表されたネット利用における暫定料率は、多くのタレントたちの権利を保護いるための著作権団体である音事協(社団法人日本音楽事業者協会)がOKしていないままである。NHKも含めて上記のような形で民放から出てきているコンテンツには、権利関係の複雑なドラマなどは非常に少ないままなのである。
ある意味では、音事協の言い分も分かるのである。著作権保護の仕組みがきちんと確立していない中で、Web上に人気タレントの絵が表示されてしまうと、翌日には台湾あたりで、そのタレントの顔がプリントされたTシャツが一着100円くらいで売られてしまうからである。
きちんとした著作権保護技術によって守られた形でネット配信がなされるのであれば、単純にネット配信についてのギャランティーを支払うことにより著作権団体の了解を得られる可能性も大きい。IP方式による地上波放送の再送信も検討されている段階にあるだけに、テレビ局から著作権団体に対する辛抱強い説得を待つというのが、現状の正しい対応の仕方であったのだろうと思われる。
ところが、そうした努力が行われている最中に、またもや著作権処理の難しさも理解せずに、資本の論理だけでテレビ局と組めれば、コンテンツも入手できるだろうと考える事業者が登場してきてしまった。楽天の登場時期、および資本の論理による登場の仕方は、相手側のテレビ局もさることながら、その背後にいる著作権者たちに不信感を抱かせるだけであり、まさに時代に逆行するものであったといえるだろう。
ライブドア問題からの学習効果などは、まるで得られていないと評価するしかなさそうだ。
◇テレビ局に合いそうもない三木谷氏の経営スタイル
仮に楽天側の提案通り、持株会社方式を採ったとしても、三木谷氏は放送についての素人でありながら、絶対にテレビ側にも口をはさんでくることは明らかだ。
東北楽天ゴールデンイーグルスの事例を見れば明らかだ。野球の素人でありながら現場に口を出していたそうだ。3年契約であったはずの田尾監督も解任してしまった。プロ野球の監督が3年という期間を与えられれば、3年目までには結果を出そうと、最初の2年間は二軍で鍛え上げていく選手もいたはずだ。ところが、その約束を反故にして、1年で解雇してしまうスタンスからは、早急に数字としての結果を出さないと気が済まない性格が見られる。
ということは、TBSの経営にも口を挟んでくるだろうし、数字としての結果、すなわち視聴率を上げることを最優先課題として求めてくることになるだろう。しかし、TBSとしては今までだって高視聴率を諦めていたわけではない。それでも上手く行かないこともあるだろう。元々民放の視聴率争いは、一定のサイクルでトップの局が変わってきた経緯にある。プロデューサーやディレクターの感覚と、その時代の視聴者の嗜好とが上手くマッチするかどうかによるところが大きい。だからこそ、30年前には鳴かず飛ばずであった「白い巨塔」が時を経て評価されることがあったりもするのである。
テレビ局が優秀な人材を育てるのには、相当に時間と費用がかかることは間違いない。すぐに数字としての結果を求める素人が経営に口を挟んでくれば、人間を育てているよりも、今日、明日の視聴率を稼ぐことが優先されざるを得なくなる。性急に結果を求めることばかりで、人間を育てることがおろそかにされると、本当なら5年後にTBSを視聴率トップに持っていくことになるかもしれない、今は埋もれている若手の成長の芽を摘んでしまうことにもなりかねない。
そういう事情で、三木谷氏の経営スタイルは、テレビ局には馴染まないのではなかろうかと考えている。村上ファンドが阪神電鉄の株式を大量取得した後、阪神タイガースの上場を提案するといった「知恵」を使っていることと比べると、「我々はこれだけの株式を取得しました」というやり方を、失敗例から半年程度しか経っていないところで繰り出してくるようでは、大した策も知恵もなさそうに感じてならない。テレビの世界に改革が求められるのは事実だが、それを実現できるのが楽天という企業であるとはとても思えないのである。