「座頭市」(2003年)でベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した北野武監督の最新作「TAKESHIS’」が、公開中だ。「その男、凶暴につき」(89年)でデビューし、12本目の監督作。北野監督は「一つの区切りになった。拳銃でどんぱちも飽きたし、奇抜な映画は今回で終わり」と語る。
最新作で北野監督は主役の2人も演じる。1人は芸能界の大スター・ビートたけし。もう1人はコンビニで働く売れない役者・北野武。武は偶然たけしと出会い、彼が演じる虚構とも現実とも区別がつかない映画の世界に迷い込んでいく--。
実は主要キャストの京野ことみや大杉漣、岸本加世子ら、登場人物のほとんどが2役以上を演じている。ストーリーはシンプルなようで次元の設定がとても複雑。北野監督は「夢を見ている人物が夢の中でさらに夢を見て……と、バームクーヘンのように重なり合っていく感じ」と表現する。
「座頭市」で興行的に成功したにもかかわらず、再び作家性が色濃い作品を撮ったのはなぜか。「漫才で言えば『座頭市』は地方の公会堂でお年寄りから子どもまで笑わせるネタ。今回の作品は浅草の演芸場に来るファンや渋谷の反応のいい学生に見せたくなるようなネタ」と例える。その上で「好きなのはどうしてもマニアックな映画なので、プロデューサーに『ヒットは期待しないで』と謝りながら撮ることになった」と照れ笑いする。
今年から東京芸大大学院映像研究科映画専攻の教授に就任した。「今度の講義では、監督業の下地作りとしての雑学の重要性を話す」という。「TAKESHIS’」にも洋画、歌舞伎、タップダンスに加え、機動隊の並び方の様式美まで盛り込んだという。
ただ、「漫才の経験を含め、映画に持って来られる貯金みたいなものを全部はき出してしまった」とも告白する。最近、黒沢明やフェリーニの作品を見直しているという北野監督。「次はとてもクラシックな作品になるかも。カット割りも現代風でなく、巨匠がいた時代にじっくり作られたような映画を撮ってみたい」と話した。【丹野恒一】