ダニー・ボイル監督/イギリス
材料(登場人物) ダミアン(アレックス・エテル)
アンソニー(ルイス・マクギボン)
父ロニー(ジェームズ・ネスビット)
ドロシー(デイジー・ドノヴァン)ほか
<お腹いっぱい食べて、貧しい人におごっても、まだまだお金が余ってる! 幼い兄弟の大冒険>
お金がいっぱいあったら、好きなものをいっぱい買える。
でも、本当にお金って人間を幸せにしてくれるのだろうか?
「トレインスポッティング」「28日後…」のダニー・ボイル監督が、「僕の子ども達に堂々と観せられる映画を作りたい」と、マイケル・ウィンターボトム監督作でおなじみの脚本家フランク・コットレル・ボイスと手を組み、新境地を開いた。
「お金」と「子ども」というモチーフを使って、お金よりももっとステキな“奇跡”を見せてくれる。そうそう、ファンタジーをはき違えている超大作「グ××~」がきているが、これぞ本当のファンタジー映画だと思う。
主人公は幼い二人、弟ダミアンと兄アンソニー。大量のポンド札が入ったスポーツバッグを拾うところから話が始まる。
映画の中では、イギリスがユーロを導入した設定にあり、12日後、お金は紙切れとなってしまう運命にあるのだ。
聖人を尊敬するダミアンは、お金は神様からの贈り物だと信じ込み、貧しい人のために役立てようと考える。アンソニーは、あくまでも自分の欲しいものを買うために使うことを考える……。
「あなたなら、どうする?」と問いかけられる思いがするが、何せ、幼い兄弟が、お金がいっぱいで重たい大きなバッグを、えっちらおっちらと運んでいるので、その姿がとってもかわいくて見とれてしまう。
しかも、2人のキャラクターが感心するほどよくできているのだ。かわいいだけでない、子どものズルさもあって、立体的に子どもを演出できている。ダミアン役のアレックス君は本作で発掘された素人だが、ちょっと変わり者の感じがよく出ていて、誰にも見えていないものがホントに見えていそう……。
現実主義の兄と空想家の弟という対照的な性格、10歳と8歳という年齢設定もうまい。なぜなら、子どもって10歳ごろから現実的な部分を持ち合わせていくと思いませんか? その部分が、キャラクターによく生かされています。
幼い2人の兄弟は、母を亡くしたばかりという、お金以上の揺るぎない現実を背負っている。終始8歳の弟の目の高さから語られるおかげで、すっかりダミアンの気持ちになりながら見てしまうだけに、古いお金(ポンド)との決別を母の死を受け入れることと重ね合わせているドラマが、深く胸に染み込んでくる。
大金のせいで、いつしかお金に使われ、大人をも巻き込んで危険な目に合うハラハラを作り、テンポも良い。
寓話の世界を引き立てているカラフルな色合いは、なんでも、夏に冬の設定で撮 影したそう。CGの取り入れ方が効果的だ。
シンプルな内容に、いろんな要素が組み合わさって、たくさんのメッセージがシンフォニーとなって鳴り響いてくる。
[文・イラスト、上村恭子]
(シネマライズにて公開中。後、全国順次公開)
☆プチ見どころ
その1 聖人の前で歯磨き、お着替えのダミアン。
その2 監督が学校の先生役で登場している。