【ジュネーブ藤好陽太郎】世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)は8日、非公式閣僚級会議を開いたが、難航する農業分野で実質的な前進はなかった。12月の香港閣僚会議で関税の削減率など具体的な数字を盛り込んだ包括合意が事実上困難になり、WTOは香港会議の3カ月後の来年3月をめどに再び閣僚会議を開く検討を始めた。
外交筋によると、8日の会議でラミーWTO事務局長が「包括合意は香港のあとにした方がいい」と発言。米国なども3月開催を念頭に再び閣僚会議を開く考えを示した。香港では中間的な合意にとどめ、冷却期間をおいて包括合意を目指す。新ラウンド交渉を06年中に終結させる目標は維持する。
非公式会議では、米国、欧州連合(EU)などが1時間余り、これまでの各提案に対して批判の応酬を続けた。市場開放分野で、関税削減率のすり合わせなど実質的な議論には入れなかった。非公式会議は農業・工業品分野の協議を終え、9日に途上国の開発問題などを協議し閉幕する。
香港会議に向け、米国は国内補助金の60%削減などを提案。これに対しEUは、関税率を平均46%削減する新提案を打ち出した。EU案は農業で譲歩する代わりに工業品分野で他国に市場開放を迫る内容。途上国から厳しすぎると批判され、米国などからも「農産品の関税率の下げ幅が小さい」と批判されていた。
米国、EU、途上国は、農産物の関税率を一定水準以下に抑える上限関税の導入も求めていたが、日本など食料輸入国は大きな対立の陰に隠れ、当面の批判を回避した形となった。