世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)は、難航する農業分野で各国が譲歩せず、ジュネーブで8日開かれた非公式閣僚会議で、ラミーWTO事務局長が12月の香港閣僚会議での包括的な合意の見送りを示唆して先送りの公算が大きくなった。残り1カ月で各国が合意する見通しがたたないためで、3月にも再び閣僚会議を開く“延長戦”が模索されている。ただ、交渉決裂を避けた3カ月の冷却期間が「吉」と出て、無事包括的な合意に至るかどうかは予断を許さない。
■溝は埋まらず
十数カ国が参加した8日の非公式閣僚会議でインドは「途上国への配慮」を強調した。ウルグアイ・ラウンド(86~94年)が途上国の農産品輸出の拡大につながらなかった不満があるためで、中川昭一農相も「途上国対策は重要」とインドを擁護した。しかし、途上国が先進国の農業市場開放を繰り返し主張したことから、欧州連合(EU)は逆に工業やサービス分野の自由化を途上国に要求。このためインドのナート商工相やブラジルのアモリン外相などが合意先延ばしを主張。米国やEUも香港合意は困難との見通しを表明した。
■香港では何を
今後、閣僚レベルが意見調整する場は、香港会議まで開かれない。交渉決裂を避けるには「目標を現実的なものに引き下げる」(インド)のも、やむを得ない選択となる。外交筋によると、ラミー事務局長が今月中にも提出する合意原案は、関税削減率など具体的な数値部分を空欄表記にして「香港閣僚会議で論議する」となるという。そのうえで、香港で詰め切れない部分を仕切り直しの春の閣僚会議で論議することに、主要国は賛同しているという。
■国内農業は安堵
日本は、米国など食料輸出国のペースで農業交渉が一気に進むのを警戒していた。このため、当面、その事態が避けられたことには、安堵(あんど)している。また、今回の閣僚会議はEUの主張をめぐる議論が中心になったことから、日本などが市場開放の度合いが不十分だとして批判される場面も少なかった。
だが、各国やグループの提案の中で、「上限関税反対」などとする日本の主張の劣勢は変わらない。農水省は「議論が先に延びただけで、方向が見えているわけではない」(幹部)と、情勢は依然厳しいとの見方を示している。【小島昇、位川一郎】