東京国際女子マラソンで、高橋尚子選手(33)=ファイテン=が会心の優勝を果たした。2年前の敗戦以来のブランク、そして右脚の肉離れを抱えながらのレース。しかし、果敢に挑み、快走を演じた。みごとな復活を、周囲で見守った人々もともに喜んだ。【石井朗生】
フィニッシュでは両手を大きく広げ、満面の笑みだった。「ここに帰ってきて良かった。2年前で止まっていた時間が進みそう」。大会では過去最多の2万人が埋めた観客席へ、目をうるませながら何度も手を振った。
2年前の「東京国際」での敗戦でアテネ五輪代表の座を逃し、五輪2連覇の夢が断たれた。失意で、一時は引退も考えたという。しかし「失敗したまま終わりたくない」と、再起を決意。今春にはより厳しい環境に身を置こうと、小出義雄・佐倉AC代表(66)から自立した。以後は過去の練習日誌を参考にして試行錯誤しながら、専属の練習パートナーやトレーナーらを集めた「チームQ」とともに米国合宿を進めた。帰国翌日の今月11日に肉離れして4日間練習ができなかったが、「東京で走らなければ何も始まらない」と強行出場。レース中も痛む右脚には「お願いだから最後まで(無事で)持ってね」と語りかけていたという。
他の選手を引率していた小出代表は、レース前には「おれだったら出場を止めたかな」。優勝を見届けると「でも大したもんだな。本当に良く走った」と心から祝福の言葉を送った。沿道から見守った父良明さん(64)も「こんなにうまくいくとは。皆さんに支えていただいたおかげ」と感激の面持ちで語った。
高橋選手はこの優勝を、「オセロゲームで黒を全部、白に変えられたかのよう」と表現した。引退すら考えたつらかった時間はもう過去のこと。「暗やみに入っても夢を持つことで、一日一日が充実する。皆さんにもそのことを感じてほしい」。この2年間で走る喜びだけでなく、人生の喜びを知ったという高橋選手の言葉に、観客からはひときわ大きな拍手がわいた。