東京慈恵会医科大学付属青戸病院(東京都葛飾区)で02年、がんで前立腺摘出の腹腔(ふくくう)鏡手術を受けた男性(当時60歳)が死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた3医師への判決が15日、東京地裁で言い渡される。検察側は「知識や技術、経験が著しく欠けていた。無謀な手術」などとして3人に禁固2年6月を求刑。男性の妻は、数珠と夫の写真を肌身離さず持ち歩き、長女は裁判傍聴のため仕事を辞めて法廷に通い続け、判決を見守る。
3医師は▽斑目旬(まだらめじゅん)(40)▽長谷川太郎(37)▽前田重孝(35)の各被告。
男性の自宅の仏壇脇には、旅先で笑う本人のパネル写真が2枚飾られている。妻は「なんでこんなことされなくちゃいけなかったのかと毎日思っている」。「旅行やパソコンやドライブ。『あれもやりたいこれもやりたい』って楽しみにしていたのに。何も知らずに亡くなってしまった」と声を詰まらせる。
検察側論告によると、3医師は02年11月8日、前立腺摘出の腹腔鏡手術の執刀経験が一度もなく安全に行う知識もないのに、患者の安全よりも難易度の高いことへの興味を優先して男性への手術を行い、大量出血による低酸素脳症で12月8日に死亡させた。
手術前、男性と妻は医師から2度説明を受けた。しかし「この病院で初めて行う手術」との説明は一切なく、妻は「聞いていたら絶対に手術を受けていない」と話す。医師らは手術後「成功した」と言い続け、男性が死亡しても説明はなかった。翌年9月に3人が逮捕されて、家族は「初の手術」だったことなどを知った。
男性の長女は「父に何があったのか、真実を知りたい」と仕事を辞め、裁判の傍聴を続けた。法廷で3医師は「麻酔科医の過失がなければ死亡しなかった」などと無罪を主張している。「自分たちが『やりたい』というだけで手術をした。絶対許せない」。判決には母と同じく、いつも持ち歩く父親の写真を胸に臨む。【佐藤敬一】
毎日新聞 2006年6月14日 11時23分 (最終更新時間 6月14日 11時25分)