【ドルトムント篠原成行】67年前の恩讐(おんしゅう)は、もはや消え去っていた。ドルトムントで14日夜(日本時間15日未明)に行われたドイツ対ポーランド戦。第二次世界大戦下の侵攻国と被侵攻国の試合は、1対0でドイツが勝利した。ゲームの激しさとは対照的に、試合後は仲良く肩を組む両国のサポーターの姿が見られた。
1939年9月、ドイツが東隣のポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が始まった。ドイツは直後にソ連に介入を働きかけ、両国に挟み撃ちされたポーランドは占領下に置かれた。
歴史は語り継がれているが、この日のサポーターは最初から友好ムード。ドイツ国歌演奏後には、ポーランド人が大きな拍手を送り、ドイツ人も手を振って応えた。
試合はロスタイムでドイツが決勝点を挙げる大激戦。ぼうぜんとするポーランド人をしりめにドイツ人は大喜びした。それでも、終了のホイッスルと同時に選手が歩み寄って握手を交わすと、両国サポーターから健闘をたたえる拍手が沸いた。
試合後、ポーランド侵攻で兄を亡くしたというドイツ人の元音楽教師、ヘルマン・エーメーさん(72)は「あの戦争は悲しい記憶だが、今は両国は友達だ。ましてやこれはサッカー。今日もいい試合だったじゃないか」と話した。
ポーランド人の歯科医、アレキサンダー・チェンチワさん(62)は、同国が過去のドイツ戦で1勝も挙げていないことに触れ「戦争でもサッカーでも負け続けてるよ」と笑い飛ばした。さらに「戦後、日韓、日中関係は良くないと聞く。隣人とは仲良くしなさい。これは年寄りの忠告だ」と記者の肩を叩いた。
毎日新聞 2006年6月15日 10時32分 (最終更新時間 6月15日 11時07分)