サッカー・ワールドカップ(W杯)は第7日の15日、B組1次リーグでイングランドとトリニダード・トバゴが対戦。イングランドが苦しみながらも、終盤に2点を奪って振り切り、決勝トーナメント進出を決めた。前半から圧倒的にボールを支配したが、得点には結びつかず。後半13分にルーニーとレノンを投入し、DF陣も積極的に攻撃参加し、38分にベッカムの右サイドからのクロスをクラウチが頭で押し込んでようやく先制。終了間際には、ジェラードの豪快なミドルシュートで突き放した。トリニダード・トバゴは粘り強い守備で健闘。後半は途中出場のグレンのカウンターを軸に好機も作ったが、最後は力尽きた。
◇クラウチが「7度目の正直」でシュート決める
イングランドサポーターが目を疑うようなシーンが続いた。前半43分が象徴的だった。ベッカムからのクロスは、ゴール前でフリーとなっていたクラウチにピンポイントで届いた。だれもが決まったと思った瞬間、クラウチは打ち切れずボールは枠外へ。チーム最多の8本のシュートを中盤から放ったランパードのキックも、すべてバーのはるか上へ飛んでいった。
初出場のトリニダード・トバコは強豪イングランドと引き分けるだけでも大金星。0-0で逃げ切ろうと9人、10人を守備にかけた。その厚みに苦しむイングランドだったが後半、待望のルーニーと、代表デビューがW杯となった19歳のウインガー、レノンの同時投入で攻撃は活性化した。とはいえ、初ゴールが生まれたのは残り10分をすでに切った後半38分。ベッカムが芸術的なまでに正確なクロスをクラウチへ合わせ、クラウチが「7度目の正直」でシュートを決めた。198センチの長身を生かした、相手DFのはるか上でのヘディングシュートはGKが手を伸ばしても届かなかった。
待ち望んだ先制点に抱き合って喜ぶイングランドの選手ら。優勝候補とは思えない喜びように、フラストレーションの大きさがうかがえた。落ち着けば、あとは本来の力が出てくる。終了間際にはジェラードが鮮やかなミドルシュート。ベッカムのクロスといい、ランパードやジェラードのミドルといい、このチームには光るプレーが随所にあるのに、それを全体の輝きにできないまま1次リーグ突破を決めた。
ベッカムは「今日は強く終われたことが重要。2試合で勝ち点6を取ることが重要だった」。結果よければすべてよしとした言葉だが、エリクソン監督が「さらにもっとよくなる」と言ったように、こんなものではないはずだ。【辻中祐子】
◇ルーニー(イングランドFW・20歳)…待ちわびたストライカーが復帰
「ルーーー」。うなるような大合唱がスタジアムに響いた。後半13分、イングランド中が待ちわびたストライカー・ルーニーが戻ってきた。4月末に右足を骨折。開幕に間に合わないことを覚悟しながらも、エリクソン監督は23人の登録メンバーに入れ、再合流を待っていた。「代わりの選手など、どこを探しても見つからない」というのがその理由だ。
脅威の回復を見せ、当初は決勝トーナメントからの参戦とみられていたが、早くもこの1次リーグ第2戦での登場がかなった。まだ100%の状態ではなく「30分の限定起用」が条件だったが、エリクソン監督は待ちきれないかのようにこの最強の切り札を切った。
ピッチを歩く姿には、まだ20歳とは思えぬ貫録がある。ボールが来ると、野性味あふれた一歩目の踏み出しが迫力を生む。ことごとくシュートが外れ、かみ合わなかったイングランドの攻撃に駆動力が出てきた。前線での力強い守備でボールを奪い、時には中央突破、時にはサイドを使う頼もしいエースとして、ピッチに存在感を示した。
次のスウェーデン戦での起用については、翌日以降の状態を見て判断するという。「これまで毎日毎日、ずっとルーニーの話をしてきた。あきあきしていたけど、やっと終わった」と話したエリクソン監督だが、もちろんその顔には笑顔が浮かんでいる。その存在なくしてはイングランドの40年ぶりの優勝は難しいとも言われてきた男が、戦いの場に姿を現した。【辻中祐子】
毎日新聞 2006年6月16日 8時14分 (最終更新時間 6月16日 9時01分)