上海協力機構(SCO)は、カスピ海の油田地帯と中央アジア、ロシア、中国を結ぶ地域組織である。上海で創設5周年の首脳会議を開いた。中露をリーダーとする「エネルギー連合」に、との声が上がっている。
だが、ユーラシアの内陸部にパイプラインでつながった「閉ざされた地域連合」ができるなら、海洋国家である日本は無関心ではいられない。開かれた地域協力を志向すべきである。
SCOの前身は、旧ソ連の崩壊後に中央アジアに生まれた新興独立国と、中露両国による上海ファイブである。2000年にウズベキスタンを加え、中央アジア4カ国と中露の枠組みができた。
当初は、国境問題などを協議する場だった。だが、中国が中央アジアを横断するパイプラインを敷設して、カスピ海方面から石油天然ガスを運ぶ「エネルギーのシルクロード」に力を入れ始め、戦略的な色彩を帯びるようになった。
さらに米国がアフガニスタンのタリバン掃討作戦を名目に、キルギスなど中央アジアに米軍基地を置いたため、それと対抗する安全保障上の意味も生じた。
首脳会議の宣言でも、中央アジアへの米国の影響力に反発をにじませている。
SCOは、昨年カザフスタンでの首脳会議で、イラン、パキスタン、インドなどをオブザーバーとして加えたことから、単なる地域協議体ではなくなった。
中国と並ぶ石油消費国のインドと、産油国のイランと、その中間にあってパイプラインが通過するパキスタンを取り込んで、エネルギー協力戦略の幅を広げた。
しかも、ウズベクは国内の米軍基地撤去を宣言している。
今年は、米国と核開発問題で激しく対立するイランのアフマディネジャド大統領の発言が注目された。米国の民主化外交をあてこすり、SCO域内のエネルギー協力を強調した。
カスピ海周辺の石油天然ガス資源は、中東と並ぶ規模といわれている。中国は、カザフスタンを東西に横断する石油パイプラインを敷設した。
だがユーラシア大陸と陸続きでない日本は、カスピ海沿岸からアフガン、パキスタンを経由してインド洋に出る南北のパイプラインが不可欠である。計画はあるが、現状のアフガンの治安状態を見れば、実現性はない。
日本は、かつて中央アジアとは「シルクロード外交」を展開し、良好な関係を築いてきた。今年、SCO首脳会議に先立って、カザフ、ウズベク、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンから外相級の要人を東京に招いた。トルクメンはSCOに加盟していないが、カスピ海東岸の産油国である。
日本は、中央アジアに対して中露のような利害関係を持つことはできない。だが、少なくともSCOが域外に開かれたものになるよう、中央アジア各国に働きかけていくべきである。そのためには、まずアフガンの安定を回復することが必要である。
毎日新聞 2006年6月18日 0時20分