駐車違反を取り締まる民間駐車監視員が導入されて、間もなく1カ月。初日は機器が動かないトラブルが各地であり、東京、岡山、広島では取り締まり中に違反者による暴行事件がこれまで計4件起きた。監視員たちはどのような一日を送っているのだろうか。【田村彰子】
東京都江東区、JR亀戸駅前の繁華街。京葉道路、明治通りが交差する、事故の多い場所だ。平日の午後1時、民間監視員の福田伸司さん(57)と村上隆二さん(60)のコンビが、約2.2キロ離れた委託元の城東署から、都営バスで到着した。
さっそく、駅前交差点に軽自動車と乗用車が駐車しているのが目に入った。軽乗用車のナンバーなどを確認していると、目を離した一瞬の間に乗用車がいなくなった。2人だけでなく、記者もカメラマンも気づかないほどの早業だった。
今度は軽トラックが止まっていた。運転席に「お弁当配達中すぐに戻ります」との紙が置かれ、ハザードランプが点滅している。「早く出てこないかな」。福田さんがつぶやきながら、辺りのビルを見回す。ナンバーを携帯端末に入力していると、弁当箱を入れるケースを抱えた30歳代くらいの女性がエプロン姿で走って来た。「すいませーん。お願いします」と額に汗を浮かべていた。「来た」「よかった」
村上さんは「なんでもかんでも取り締まったら、単に憎まれるだけになってしまうからね」と話す。エンジンをかけたままだと、近くの店をのぞくこともあるという。
署を出て約2時間、3キロ以上を歩く。これを午前1回、昼食後に午後2回、計3回繰り返す。終える度に、署に戻って端末とデジタルカメラを返却しなくてはならない。勤務中は自販機でジュースさえ買えない。午後2回の間にある約30分の休憩は、署近くの事務所でスポーツ飲料を飲むだけで終わった。
2人は都営地下鉄の売店の運営などをする「都交通局協力会」の職員。同会が業務委託を受け、6月から配置転換で監視員になった村上さんはひざ痛に襲われ、革靴からスニーカーに履き替えた。会社員から転職した福田さんは、腰痛に悩まされている。署に現在27~63歳の16人が登録しているが、既に4人が「向いていない」と監視員を辞めた。
村上さんは「病院や薬局の前に止まっている場合など、ケース・バイ・ケースの判断が難しい」と悩みを打ち明ける。既に罵(ば)声の洗礼も受けた。「食事していただけだ、やめろ」「何やってんだ、お前らは」。そんな時、「殴られなかっただけよかった」と思う。月8日の休みで、月給は手取り20万円弱という。
民間駐車監視員は、各都道府県公安委員会の2日間、計14時間の講習(警察OBは免除)を受け、交通知識の試験に合格しなければならない。
5月末現在の合格者は全国で1万7095人。会社員やフリーターなど職種はさまざまで、警察OBは769人(4・5%)。最高齢は80歳、平均年齢は44.6歳。ただし、署と契約した74業者・法人に所属しなければならず、実際に6月から従事しているのは約1600人に過ぎない。
都公安委員会が7月中旬に実施する講習は、募集初日に約1000人の定員がいっぱいになった。「警察官の天下り先では」との批判もあるが、警察庁は「経験を生かしてもらうことは歓迎すべきことで問題はない」と話す。【遠山和彦】
毎日新聞 2006年6月28日 12時19分