厚生労働省は10日、全額税金で負担している生活保護受給者の医療費「医療扶助」について、08年度から一部自己負担を求める方向で検討に入った。医療機関の窓口で、最低でもかかった医療費の1割を支払ってもらう考え。ただ、受給者に自己負担を課すことは、憲法上の「最低限度の生活保障」を目的とする生活保護の理念を覆す、との指摘もあり、同省は慎重に検討を進める意向だ。
06年度の生活保護費(予算ベース)は2兆6888億円。うち、51.8%に当たる1兆3940億円が医療扶助に充てられている。現在は、生活保護受給者が医療機関にかかっても窓口負担は一切不要で、財務省はこの点が生活保護費全体を押し上げているとみて改善を迫っている。
社会保障費を2011年度までに国費ベースで1.1兆円削減することを目標とした政府方針を受け、財務省は今後5年間、厚労省に毎年社会保障費の伸びを2200億円圧縮するよう求める方針。厚労省は、07年度予算については、生活保護費の母子家庭を対象とした加算の縮小と地域加算の見直し、雇用保険の国庫負担削減などでクリアできるとみているが、08年度のメドはたっていない。このため08年度は、生活保護費本体部分の「生活扶助」の水準カットとともに、医療扶助への自己負担導入を検討することにした。
同省はこの社会保障費の削減効果を1000億円台とみている。
生活保護制度の改革をめぐっては、医療扶助を廃止し、生活保護受給者には市町村の国民健康保険へ移行してもらって自己負担を求める案が再三浮上している。ただ、市町村は「財政負担増を招く」と反発し、議論は進んでいない。このため厚労省は、医療扶助制度を残したまま自己負担を求める方針案を与党幹部らにも説明した。
【吉田啓志】
◇医療扶助 生活保護申請者で、自治体の医療助成制度などを活用しても生活が苦しい人が対象。社会福祉事務所などで発券する診療依頼書を持参して受診する。99年度の月平均受給者は80万3855人だったが、04年度は115万4521人と急増している。
毎日新聞 2006年7月11日 3時00分