災害は忘れたころにやってくる、とは言い得て妙だ。大惨事が起き、難を逃れれば感謝し、被災者に同情する。「明日はわが身だ」と備えを固めようとするが、のど元過ぎれば……のたとえのように、しばらくすれば忘れてしまう。そこへ、また大惨事--。何度繰り返してきたことか。今年の防災白書は、誰もが災害の犠牲者になり得ると自覚すべきだ、と強調し、防災意識が希薄化する現状に警鐘を鳴らしている。当たり前すぎるが、大事なことだ。
それというのも、たとえば地球温暖化の影響か、台風や梅雨前線に伴う豪雨が増えているのに、自治体も市民も「台風や大雨では死なない」と思い込んでいる、と白書は指摘する。ハザードマップを作成し、被害予測や地域の事情に見合う防災計画を立てることが重要との共通認識はあっても、洪水用のハザードマップは対象市町村の約25%でしか整備されず、地震用に至っては全国の市町村の5.5%が作成しているだけだ。
東京都の調査では、都民の半数以上が防災訓練などに参加しており、非常用の食料・飲料水も備蓄しているが、地震時に家具類の転倒で負傷するケースが目立つのに転倒防止の施策を講じた人は30%に満たない。住まいの耐震補強は8%の人がしただけだ。
一方で、高齢化に伴って不安は増すばかりだ。独居老人の避難誘導などに必要な要員は増えているのに、消防団、水防団の団員数は減り続けている。過疎地帯では地域のコミュニティーもあてにできなくなっている。現に「平成18年豪雪」では戦後3番目に多い151人もの死者が出た。その3分の2は高齢者。豪雪地帯では高齢化、過疎化が深刻なために被害が広がったとされている。
さらに、耐震偽装事件で、81年の建築基準法改正後の建物は耐震基準を満たしているので安全だ、という常識さえ信用できなくなった。相次ぐエレベーター事故から、地震時の安全対策以前の問題も浮上している。
今こそ、災害を身に迫り来る危険と認識し、身の回りを再点検して、できることから対策を具体化させねばならない。市区町村は必要なハザードマップを整備し、緊急連絡や避難誘導などの計画を世帯ごとに練り上げ、役場職員の役割分担も決めておく必要がある。衰退化する消防団などの力を補うためには、地元の大学生や高校生らの支援を求める態勢も工夫しておきたい。ボランティアの育成にも力を入れねばならない。
明らかに耐震性が不足しているとみられる全国1150万戸の住宅の耐震化は、緊急の課題だ。改築費用の一部の貸し付けなどでは、民間の耐震化は進みがたい。簡便な耐震化工事方法や器具類の研究、開発を促進し、コストダウンさせることが必要不可欠だ。避難場所となる全国の学校の半数近くで耐震性に問題があるという現状も、一刻も早く改善すべきだ。
身近な「減災」対策から手をつけるべく、まず、慢心を払いのける意識改革から始めよう。
毎日新聞 2006年7月12日