ネイルカラーを欠かさなくなって10年近くたつ。誰のためでもない、自分のためだ。色づいた指先を眺めるのが心地よい。まゆを整えようと、新色の口紅を塗ろうと、鏡がなくては見られない。でも、つめは自分でめでられる。顔の化粧が他人向けなら、ネイルカラーは自己陶酔の化粧だ。
コーセーの調べでは、40代前半までの女性の49%がネイルエナメルを使っている。看護師さんなど仕事柄できない人がいて、この数字。自分の指先をケアする女性は、私の周囲でも確実に増えている。背景にはパソコンの普及あり、というのが私の体験的推測だ。肩は凝り、目も疲れるパソコン作業。無機質な空間で、唯一視界に入る「私」がキーをたたく指先。その彩りに、時折ふっと息をつく。美を感じ、人間らしさを取り戻す瞬間、といったら大げさか。
ただ、エナメルは1週間ほどではげてくる。美しさを保つには手間ひまかかるし、もはや強迫観念かと思う派手なネイルの女性も増えている。快感を維持するために新たなストレスが生じる。なんとも皮肉な話ではある。【國保環】
毎日新聞 2006年7月14日 12時28分