金融庁が不動産投資信託(リート)に絡み、業務停止命令を含む処分に踏み切ったのは、ずさんな不動産投資が行われることで投資家に被害が及ぶばかりか、不動産市場の価格形成までゆがめる恐れがあるとの判断からだ。同庁と証券取引等監視委員会は検査指針でリートを重点対象に据えるなど監視姿勢を強めており、今秋以降の検査次第では厳しい処分が相次ぐ可能性がある。
個人投資家から集めた資金で不動産を運用し、収益を配当するリートは、バブル崩壊後下落が続いた不動産市場の活性化のため、政府が00年に解禁。01年9月に2銘柄が東証に上場した。国債などに比べ利回りが高いことから個人投資家の人気を集め、現在は東証や大証などに計36銘柄が上場。時価総額は約3兆5000億円と、2銘柄の上場当初の15倍にまで拡大している。
ただ、好調の裏で危うさも指摘されていた。リートの設立母体は、多くが不動産会社や不動産投資を手がけるファンド。自社が開発を手がけた物件を、実際の価値より高値でグループのリートに購入させる可能性もあり、金融庁は「潜在的に利益相反の可能性が大きい」と警戒を強めていた。
今回処分を受けたオリックスのケースでは、調査を怠って違法建築と知らずにオフィスビルを取得するなど、ずさんな運用が明らかになった。不動産取得時の評価をめぐっては、新生信託銀行とJPモルガン信託銀行が今年4月、不動産から得られる収益を小口に分散して販売する際に、審査をしていなかったとして、新生信託が1年、JPモルガン信託が6カ月間の一部業務停止命令を受けた。日本版リートである日本リテールファンド投資法人も同月、役員会議事録を改ざんしていたとして、業務改善命令を受けている。
東証のリート市場の値動きを示す東証リート指数は、耐震偽装問題を契機とした不動産投資の敬遠ムードや、ゼロ金利解除による調達金利の上昇でリートの利回りが低下するとの思惑から、5月8日の最高値から8%も下落するなど頭打ち傾向もみられる。金融庁の処分はこれに追い打ちをかけた格好で、リート自らによる法令順守の強化や運営の透明化などが求められそうだ。【坂井隆之、清水憲司】
毎日新聞 2006年7月21日 20時32分