「雨障」と書いて「あまつつみ」あるいは「あまざわり」と読む。雨に降られて外に出ずに、家に閉じこもっていることをいう。万葉集に出てくる由緒ある言葉だが、国文学者の古橋信孝さんによると当時は雨に打たれるのをおそれ慎む習俗があったのだという▲降らねば作物を枯らし、降りすぎれば農地に被害をもたらす雨である。昔の人が天から落ちてくるそんな雨に人知を超えた霊力を感じたのも当然かもしれない。いや現代人だって自然の大きな力の前での無力を思い知らされる雨に見舞われることがある▲全国で28人もの死者・行方不明者を出したこの間の長雨だ。長野県岡谷市の土石流では今なお多くの被災者の避難生活が続き、南九州では降り始めから1200ミリを超える総雨量となるなど記録的な豪雨が各地を襲った。被災者の方々には心よりお見舞いを申し上げねばならない▲「暴れ梅雨」「荒梅雨」といわれる梅雨後期の豪雨である。太平洋高気圧の北への張り出しが弱く、列島上空に停滞した梅雨前線に台風4号の湿った空気が入り込んだための大雨だったというが、その後もまだすっきりしない天気が各地で続いている▲平年の梅雨明けは九州南部で今月13日、関東甲信で20日ごろというからすでにかなりの長梅雨だ。ようやく太平洋高気圧の勢力が強まった西日本は週末にも梅雨明けとなりそうだが、東日本や北日本では8月に入る恐れもあるという。長雨による野菜の値上がりも伝えられ、夏の季節商品を抱える業者も心穏やかでない▲カッと照る太陽を待ちわびながら思わぬ「雨障」を強いられた夏休みの子供らもぼつぼつしびれを切らしそうだ。せめて長く荒れた梅雨のあとは「梅雨明け十日」といわれる好天を期待したい。
毎日新聞 2006年7月26日 0時08分