「パリ・ダカ」の愛称で知られるダカール・ラリーは、サハラ砂漠を縦断する約9000キロのコースで、人と車の限界に挑む世界一過酷なモータースポーツだ。来年の大会に、元F1レーサーの片山右京さんが、使い古しのてんぷら油を燃料源にしたエコカーで参戦する▲片山さんが客員教授を務める大阪産業大(大阪府大東市)が後方支援する。学生たちが家庭の残りを持ち寄り、飲食店などにも協力を求めて、レースに必要な約1万リットルを集める。これを化学処理したのがバイオディーゼル燃料(BDF)だ▲植物油ならなんでも利用でき、二酸化炭素や硫黄酸化物の排出量も軽油より少ない。地球温暖化防止や環境汚染対策として利点は多いが、排ガスにてんぷらの香ばしいにおいが残る。しゃく熱の大地に日本の食卓からの風が吹き、観客が鼻をひくつかせる姿を思うと、ほのぼのした気分になる▲実用化の動きは、存外に早い。京都市は既に廃油リサイクル網を作り、ごみ収集車のすべてと市バスの一部にBDFを使っている。ならば、直接植物からBDFを作ればどうか。北海道ではナタネを原料にした生産実験も始まった▲石油高騰を追い風に、農産物から作るエコ燃料が、世界各国で注目されている。日本でも4年後には原油50万キロリットル分を、BDFやサトウキビなどが原料のバイオエタノールに振り替えよう、という目算だ。生産コストや原料の安定供給など踏破困難なステージが待ち受けるが、ここでコースアウトしてしまうわけにはいかない▲参加車両の約7割が途中リタイアするパリ・ダカで、初陣のエコカーはまず、完走が目標だ。話題作りでいい。こんなとっかかりから興味と理解が広がれば、循環型社会のゴールも見えてくる。
毎日新聞 2006年7月31日