全国の警察本部が交番の再編を進めている。警視庁も東京都内の941カ所の交番のうち121カ所を廃止する方針を打ち出した。警察庁によれば、空き交番の解消が主な目的で、来春には空き交番をゼロにするという。
警察にとって交番再編は長年の懸案だった。警察法が施行された半世紀前、警察署の整理統合と共に派出所、駐在所も改編されたが、抜本的な見直しに至らなかった。その後、人口流動などに見合った削減や再配置の必要性が指摘されたが、都市開発に伴って新設されるばかりでほとんど削減されず、警察の負担が増大しているのが実情だ。市町村合併も進んでおり、治安事情や人口などの実勢に見合った再編を図るのは当然だ。
しかし、統廃合で空き交番をなくすという警察当局の論法には、首をかしげたくなる。空き交番を問題とするなら要員をやりくりするのが筋で、交番を減らして帳尻合わせするのでは本末転倒だからだ。廃止される交番の管内住民から不安や不満の声が聞かれるのも、無理からぬところだろう。
空き交番解消ばかりを強調し、再編後の「防犯ビジョン」を明らかにしないところに問題がある。警察庁によれば、再編は警察官の増員と連動しており、交番の数は減っても配置は適正化され、交番勤務の警察官1人当たりの受け持ち戸数は減る。その分、パトロールが強化され、勤務形態も地域警察官の持ち回りでなく、交番ごとに専属グループを決めて地域との一体化を目指すという。それならば、住民に達意の説明をし、理解や協力を求めるべきなのに、相変わらず警察が独り善がりなのは残念だ。
実は空き交番問題も、時代と共に変質している。横浜市で85年、強盗を捕まえて最寄りの交番に突き出そうとした大学生が、強盗の逆襲に遭って刺殺される事件が起きた際、交番に警察官が不在だったため、警察官がいれば大学生は殺されずに済んだ、との声が高まった。以来、空き交番が社会問題化したが、電話が普及した最近は110番が活用され、交番に事件、事故を急報する住民は少ない。緊急時には無線でパトロール中の警察官を呼び出すこともできるから、交番に警察官が不在でも支障は昔ほどには生じなくなった。
交番は本来、事件など非常時に対応すること以上に、治安の備えを平素から固めるためにある。パトロールも犯罪や不審者の発見だけでなく、管内の状況把握に意義がある。平時を知れば、異変にすばやく対処できるからだ。巡回連絡で住民の案内簿を作成し、さまざまな捜査や照会に役立たせるのも交番の重要な機能で、どれだけ犯罪捜査などを迅速、省力化させてきたか計り知れない。
警察当局は今後、交番をより開放的に運営するように努め、防犯拠点として活性化させねばならない。全国で2万を超す防犯ボランティア組織とも連携し、町内会や消防団などの活動も側面から支援すべきだ。住民側も交番を有機的に活用する方策を模索したい。
毎日新聞 2006年7月31日