「2007年問題」と言えば、一般的には来年から始まる団塊世代の大量退職時代を指すが、もう一つの07年問題がある。少子化の影響で来年度の入試から、大学・短大の志願者数と入学者数が試算上、同じになる「大学全入時代」の到来がそれだ。
しかし、当然のことながら、進学希望者はどこにでも入学するわけではなく、有名ブランド大学に受験生の人気が集中すればするほど、定員割れを起こす大学が続出することになる。日本私立学校振興・共済事業団が06年度の私立大学入学動向についてまとめた調査結果は、大学も淘汰(とうた)される時代に入ったことを物語っている。
事業団によると、4年制私大556校のうち、通信制だけの大学などを除く550校の調査で、過去最高の222校(40・4%)が定員に満たなかった。定員割れは99年度に全体の1割を上回り、その後は3割前後で推移したが、一気に4割を超えた。20校は入学者が定員の半分にも達しなかった。
志願者(約295万人)は05年度より約6万5700人少なかったにもかかわらず、入学定員(約44万人)は8大学、50学部増加したことなどから約9300人増え、定員割れに拍車をかけた。規制緩和の流れから大学設置認可が弾力的になり、経営側は学生をできるだけ集めようと薬学や看護・福祉などの人気学部新設に飛びつく傾向が目立っていた。安易な拡大路線のツケが回ったといえる。
一方、大都市圏に集中する入学定員3000人以上の大規模大学(23校)の志願者は05年度より計約5万人増えた。逆に地方の私大の定員割れはいっそう進み、地域間格差が激しくなっている。
定員割れは授業料などの収入減に直結するだけでなく、文部科学省から交付される補助金の減額にもつながる。定員割れから03年に立志舘大(広島県)が廃止に追い込まれ、05年には萩国際大(山口県)が民事再生法の適用を申請した。事業団によると04年度決算で、私大を経営する学校法人の約25%が実質赤字だった。私大を取り巻く環境は厳しさを増している。
大学経営が破たんすれば、最も被害を受けるのは在学生だ。親も心配が尽きない。経営者は都合の悪い定員割れ情報も含め、在学生や受験生に経営状態をきちんと公開する責務がある。経営に問題が生じれば学部や定員を減らすなどスリム化も検討すべきだ。
大学の破たんにどう備えるか。文科省は昨年5月、破たん大学の在学生受け入れを近隣の大学に要請し、受け入れた大学には補助金を増額するなどの対応方針を取りまとめた。事業団の研究チームも今月、中間報告をまとめたが、破たんの恐れがある大学に対して学生募集を停止させる仕組みなどは今後の検討課題として残された。
在学生の就学機会を守り、社会的混乱を招かないための万全のスキームが欠かせない。在学生支援を実効性のあるものにするには、金融機関の破たん処理を定めた金融再生法のように、法律による整備が必要な時機に来ている。
毎日新聞 2006年7月31日