サッカー日本代表の新監督にイビチャ・オシム氏が就任した。9日のトリニダード・トバゴ戦がデビュー戦となる。
先のワールドカップ(W杯)ドイツ大会で、日本代表は2敗1分けで無念の1次リーグ敗退に終わった。世界的な知名度を持つジーコ監督が去り、中心選手の中田英寿選手も引退を表明、「オシム・ジャパン」には文字通り「一からの出直し」が求められる。
オシム氏は旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ出身で、64年の東京五輪にはユーゴ代表FWとして出場した。86年から92年までユーゴ最後の代表監督を務めている。
当時のユーゴ代表には日本でも活躍したストイコビッチら欧州各地のプロリーグで活躍する選手が顔をそろえ、「人材の宝庫」と評された。だが、モザイク国家といわれた国内では、すでに民族間の内紛が激化しており、各民族から選び抜かれた混成集団を率いるのは容易ではない。オシム監督は見事にチームとして一つにまとめあげ、90年のW杯イタリア大会でユーゴをベスト8に導いている。
ユーゴ解体後、ギリシャ、オーストリアのクラブチームで実績を残したオシム氏は3年前、ジェフ千葉・市原の監督に招かれた。低迷していたチームを短期間に徹底した走りこみによる猛トレーニングで鍛え抜き、常に優勝争いに顔を出すチームに育て上げた。
ジェフ千葉は財政的に恵まれたチームではない。いまも毎年のように主力選手が他チームに引き抜かれていく。そんな中でも次々と代わりの若手選手を育て上げてきた。マジシャンのような素材発掘と選手育成の手腕もオシム氏に注目が集まるゆえんだ。
歯にきぬを着せない独特の「オシム語録」も小気味いい。
「日本人は、自分たちがトップの仲間だと思い込んでいる。政治や経済はトップレベルだろうが、サッカーでは勘違いだ」「日本人の持ち味をいかに生かすか。他国にないものを日本人は持っている。具体的には敏しょう性、いい意味でのアグレッシブさ、個人の技術。今は個人技がチームのためになっていない気がする」
これは監督就任会見でのオシム氏の発言だが、われわれ日本人自身が気づいていない長所を引き出してくれるかもしれない、という期待を抱かせてくれる。
オシム・ジャパンの最終目標は4年後、南アフリカで開かれるW杯だ。豪州がアジア地区に加わり、アジア代表の座を射止めるのはドイツ大会以上に厳しい戦いになることが予想される。
4日発表された「オシム・ジャパン」の第1次メンバーは13人。浦和レッズから半数近い6人を選びながら、W杯で精彩を欠いた小野伸二選手を外すなど、オシム色も打ち出している。
65歳と世界の代表監督を見渡しても最高齢の部類に属するオシム氏だが、豊富な経験が期待感を高めてもくれる。4年後のW杯までどんな夢を見せてくれるのか。楽しみに見守りたい。
毎日新聞 2006年8月6日