核兵器の拡散が懸念され、テロや紛争が世界を脅かす中、被爆地・ヒロシマは6日、61回目の原爆の日を迎えた。広島市中区の平和記念公園で催された平和記念式典(原爆死没者慰霊式・平和祈念式)には約4万5000人が参列。広島市の秋葉忠利市長は平和宣言で、「人類は今、すべての国が核兵器の奴隷となるか自由となるかの岐路に立たされている」と指摘。同市が中心となり、世界1403都市が加盟する「平和市長会議」から、都市を核攻撃の目標としないよう核保有国に求める運動を展開すると表明した。
秋葉市長は平和宣言で「被爆者の声は心ある世界の市民に広がったが、世界政治のリーダーたちはその声を無視し続けている」と批判した。北朝鮮やイランへの核兵器の広がりや、米国による小型の「使える核兵器」の開発推進が懸念されている。イラクやレバノンでの戦闘で、多数の市民が犠牲になっている。
日本も、在日米軍再編を受けた基地問題に揺れ、平和憲法を巡るせめぎ合いが続く。一方、被爆者に対する援護は今なお行き届かず、原爆症認定訴訟では大阪、広島の両地裁で被爆者側の勝訴判決が相次いだ。平和宣言は、政府に対し、平和憲法順守を前提に、核兵器廃絶に向けた世界的運動の展開や、高齢化した被爆者への援護策の充実を求めた。
オランダ・ハーグの国際司法裁判所が「核兵器の使用は一般的に国際法違反」と勧告してから10年がたつ。平和宣言は核保有国だけでなく、多くの市民が真正面から勧告を受け止めていれば、核兵器は廃絶されていたはずだと指摘。「固い意志と情熱を持って私たちが目覚め起(た)つ時が来た」とも呼びかけた。
式典は午前8時に開始。秋葉市長と遺族代表2人が、この1年間に死亡、または死亡が確認された被爆者5350人の名簿3冊に加え、今年新たに、名前さえ分からない多くの死没者を追悼するため「氏名不詳者 多数」と記した名簿1冊を原爆慰霊碑下の奉安箱に納めた。原爆死没者名簿は計89冊、死没者数は計24万7787人に上る。また、こども代表として日米両国籍を持つ小学6年のスミス・アンジェリアさん(12)らが「平和への誓い」を読み上げた。
続いて小泉純一郎首相、伊藤一長・長崎市長らが献花。原爆投下時刻の午前8時15分、参列者は1分間の黙とうをささげた。式典には過去最多の35カ国の駐日大使らが参列した。【田中博子】
毎日新聞 2006年8月6日