今年4月、和歌山県高野町高野山の写真館店主、久保田耕治さん(71)が殺害された事件で、殺人の非行事実で送致された少年(16)=当時高校2年=の第3回審判が9日、和歌山家裁であり、中村昭子裁判官は「わずかな面識しかない被害者に対する悪質かつ残忍な行為であり、結果は極めて重大。社会に与えた不安感などの影響も見過ごせない」などとして、少年の検察官送致(逆送)を決定した。和歌山地検は10日以内に少年の処分を決める。起訴されれば、少年は成人同様、公開の刑事裁判を受ける。
決定で中村裁判官は、母子関係に起因するストレスを抱えた少年の適応障害を認め「専門家による働きかけが未成熟な人格の成長を促し、真の更生につながる」と指摘。しかし「少年の資質から行為の重大性は認識しうるはず」などとして、逆送が相当と判断した。付添人の弁護士によると、少年は「殺すつもりはなかった」と殺意を否定していたが、中村裁判官は未必の殺意を認定した。
決定などによると、少年は昨年秋、大阪府の私立高校をやめ、和歌山県の高校に転入。4月24日午後4時15分ごろ、うっ憤を晴らす目的で、写真館で久保田さんの顔を拳で殴るなどした。さらに店舗奥の台所にあった炊飯器や電気ポット、調理バサミなどで何度も殴るなど暴行を加え、出血性ショックで死亡させた。
家裁が実施した精神鑑定で、少年は、母子関係を中心とした家庭環境が原因で過度のストレスを抱え込み、社会環境に対応できない適応障害と診断された。【岸川弘明、栗原伸夫】
▽加藤敏員・和歌山地検次席検事の話 少年法にのっとった適正妥当な決定。今後、若干の補充捜査を行った上、公判請求する予定である。
▽付添人の藤井幹雄弁護士の話 結果の重大性を重視した決定で、少年側としては残念な決定と思う。刑事手続きの中で、真の更生やしょく罪意識を身につけることが先送りになってしまうことを心配している。
毎日新聞 2006年8月9日